【22.07.01】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.107)「満室は<成功>ではなく、<失敗>である。」



前職の出版社時代、もう20年以上前の話です。当時、中谷彰宏さんに書いていただいた『ホテル王になろう』という本がものすごい勢いで売れていました。ホテル志望学生が集まる「ホテル業界就職セミナー(現・ホテル業界合同企業説明会)」の会場でも販売しまた。すると、飛ぶように売れて100冊がすぐに完売したのです。私は得意になって太田進社長に「社長、ホテル王、100冊売れました! 完売しました!!」と伝えました。褒めてくれると思ったのです。が、社長の返答は意外でした。

「なんで、もっと持っていかなかったんだ!」

つまり、150冊くらい持っていけば、もっと売れたのに、お前は機会損失したんだよ、という意味でした。私は素直にこの叱責に納得しました。


単価を上げると店もお客も幸せになる!?



先日、那覇出張の際に、国際通りから少し入ったところにある沖縄料理の食堂でランチをとりました。そこはとても人気のある食堂で、昼も並ぶし、夜は行列が毎日できるそうです。メニューを見てびっくりしました。「沖縄そば」や「フーちゃんぷるー」などをメインとして4品ついてくる定食が、なんと660円! 激安です。観光客の来店も多いですが、地元のお客さんも来る店なので、地元民価格を維持したいという意向があるのは理解できますが、個人的に感じたのは、「単価上げればいいのに・・・」ということでした。単価を1.5倍にしても、少し減るとは思いますが、お客さんは十分来ると思います。そうすれば、お客さんを待たせることは減るでしょうし、スタッフも落ち着いて調理できるし、接客できる(昨日のランチ時は、カオスような慌ただしさでした)。



「売り切れ」は、失敗。



翻って、ホテルの話。最近、ネットでいろんなホテル業界の識者が訴えているように、「稼働よりも単価重視策」で行くべきだと私も感じます。STRの櫻井さんも、「2019年の時点で『稼働率が60%台で高い方』というのが全世界的なスタンダードであり、日本のように国全体で80%を超える稼働率というのはかなり高い」と言っています。

「満室」は、レベニューマネジメントの成功ではなく、失敗と考えた方がいいのではないでしょうか。20年前に太田社長が私に示してくれたように「売り切れ」は、失敗と考えるのです。

100室のホテルを8,000円で売って満室にすると売り上げは、80万円です。一方、単価を1万円に設定し、結果20室売れ残ったとしても、売り上げは同じ80万円です。でも、コストは前者の方がかかってしまうので、GOPは後者の方が高くなるのです。

しかも、いまはオペレーションするスタッフ不足です。それにモノの値段が上がっている昨今です。経費は徐々に増えていきます。

ポストコロナの時代は、「単価とクオリティを高めて利益を残す」という方向性が、あるべきスタイルではないでしょうか。そして、利益が残ったらスタッフに還元してください。



選ばれたい人から選ばれ、選んでほしくない人から選ばれない



今年私は、自己投資として、ホテルや旅館を意識的に泊まるようにしています。1〜6月の半年間でちょうど60軒泊まりました。そこで気付いたのは、「コンセプトが明確・明快な宿は、それを選ぶ客層は同じような人が集う」ということ。

選ばれたい人から選んでもらい、選んでほしくない人からは選ばれない。こんな最適なマーケティングが、コンセプトを際立たせることによって、成立する。世界観、好みの合う人たちと、空間と時間を共創していくホテルづくりができる。結果、ファンになったお客さんがまた、世界観、好みの合う人を連れて来てくれる。常連さん、贔屓客がどんどん増える。そういう顧客は、価格の魅力(=リーズナブル)ではなく、好みで選ぶので価格に頓着しない。

そんな顧客と、数多く繋がっている宿は、単価を上げても客数は減らないでしょうし、無理して満室を目指す必要はなくなるのだと思うのです。


※写真はすべてイメージです。本文との関係はありません。

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