【21.03.10】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.99)

「熟成ホテルとサードプレイスホテル」

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先日、Club houseを聴いていたら面白い表現を耳にしました。ホテルラヴァーの皆さんが大好きなホテルを語るルームで、あるヘビーユーザーの方がこんなことをつぶやきました。

「ホテルには、経年して熟成して味わいを増すホテルと、10年も経つと朽ちてしまうかのように魅力を失って、注目されなくなるホテルの両方がありますね」

この「熟成していくホテルとそうでないホテルの違いはなにか」という問いは、とても大事な問いだと感じました。OldとVintageの違いはどこから生まれるのかという疑問です。素敵なハードを創り上げるのは開発や建築の仕事。でも、熟成させるのは経営者・運営者の仕事です。では、どんな運営者がホテルを熟成させることができるのか・・・・。こんなことを考えながらホテル運営をすれば、日々どのように運営すべきか、磨きをかけていくべきか、そのやり方も変わる気がします。きっと、しっかりメインテナンスしていくのはもちろんですが、ホテル運営者だけではなく、来られるお客さまとの二人三脚で空気・雰囲気は作られるし、より味わい深くなっていくのだと思います。先日取材した「ひらまつ軽井沢御代田」では、「経年美化」という言葉を聞きました。経年劣化ならぬ、経年美化。つまり、年を経るにつれて美しくなる・・・。ハレクラニ沖縄のオーナーである三井不動産は「経年優化」というキーワードを使っているそうです。


サードプレイスホテル

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話は変わりますが、私には沖縄・那覇に、自分のサードプレイス的ホテルがあります。「Third Place(第三の場所)」という言葉は、スターバックスがそのコンセプトとして使うようになって有名になりましたが、改めて解説しますと、「第一の場所である自宅と第二の場所であるオフィス、それ以外で自分がリラックスできる、居場所を感じることができ場所」という意味です。20年くらい前までは、都内にも「サードプレイスと思えるホテル」、「自分のサードプレイスホテルにしたいと思えるホテル」が多くあったと思いますが、機能重視、収益重視の宿泊インフラ的ホテルが増えていったからか、めっきり少なくなったと感じています。

那覇にある私のサードプレイスホテルは、「ESTINATE HOTEL NAHA」です。グローバルエージェンツが所有・経営・運営しているライフスタイルホテル。ここのラウンジ、とても居心地がいいのです。何時間でも居られます。PCをずっと操作しているワーケーション中らしいノマドワーカー、数人で「ゆんたく」(沖縄言葉で「おしゃべり」)している地元の人、スタッフと談笑している常連さんなどがいつも居ます。私も、那覇で数時間時間が空くと宿泊客でもないのにここにきてメールのチェックなどをしますが、楽しそうなスタッフの接客風景、思い思いの過ごし方をしているゲストの姿などが良い感じのBGMになって、仕事もはかどるからです。

同ホテルのマネジャーである濱田佳菜さんはじめ、数人のスタッフと顔見知りになっていますし、私が気に入っているソファ席も知っているので、黙っていてもそこを案内してくれる。陽気がいい日はテラス席を勧めてくれる・・・。もちろんスタイリッシュこの上ないラウンジの空間美もありますが、それ以上に「自分の居場所」を感じさせてくれるからこそ、足しげく通ってしまうのだと思います。


自分の居場所が全国にあるという幸せ

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先日の沖縄出張時も、「ESTINATE HOTEL NAHA」のラウンジに居ました。「熟成するホテルと、単に古びていくホテルの違いってなんだろう」とつらつら考えながら・・・。そして、そのときに思いました。「熟成するホテルには、そのホテルを愛し、存在を誇りに思うスタッフと贔屓客の存在が必ずある」と。自分がそのホテルに行くと、そのホテルが大好きなスタッフがいて、いつも歓迎してくれる。居場所を感じさせてくれる。知り合いを連れていきたくなる。自分の人生において大事な存在だと思えるホテルである・・・、そんなホテルこそが、熟成していけるのだと気づきました。

つまり、多くの人にとってサードプレイスホテルであるホテルこそ、熟成し続けられるのではないかという結論に至りました。

濱田マネジャーは、運営上心掛けていることとして、こんなことを語ってくれました。

「接客しているスタッフ同士も楽しそうだけれど、『ちゃんとケアされているとゲストに感じてもらえる』というオペレーション、ラウンジの空間づくりが理想です。デュアルライフを生きるゲストのみなさんに、『家にいるよりリラックスできるし集中できる』と思ってもらえる空間を目指しています」




CSクレイジーバンドの山田修司氏から、「ソサエティとコミュニティの違い」を聞きました。ホスピタリティロジック研究者の石丸さんの論だそうです。それによると、その違いは、構成員一人ひとりがみな知り合いではないのがソサエティであり、みんなが知っているというのがコミュニティ。日本は人口減少時代になり、この時代の本質的な課題は、多くの人が孤独を感じるということであり、そうなってくると今後は、ソサエティではなく、コミュニティの価値が高まる。そこに行けば誰か知り合いに会える、自分のことを知っていて、いつも歓迎してくれるという場所。そうした場所づくりのためには、運営者が、どれだけコミュニティをつくっていけるかだと思います。だから、「スタッフが楽しみながら、お客さんとお客さんを繋げることをやる(つまり、コミュニティをつくるということです)」ということがこれからは重要なのだと思うし、それがゲストにとってのサードプレイスホテルになり、ひいては、より魅力を増す熟成ホテルになっていく秘訣だと思います。全国にこんなホテルが増えることが、利用者の人生を豊かにするし、ポストコロナのホテルの存在価値の一つだと実感します。


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