【20.11.01】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.96)「ホテルは、なぜつまらなくなっていくのか」

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ホテル・旅館を利用していて寂しい想いをすることがあります。

それは、そのホテルの一泊二日の滞在で一度も質問されないでチェックアウトするときです。みなさん一生懸命仕事をしているけれど、お客さんに質問しない。「お客さんに興味ないのなか?」と感じます。本来、ホテルパーソンはヒトと接するのが好きでこの仕事を選んだはず。お客さんだって、セリフじゃない会話をホテルパーソンと交わすことを楽しみにしている人も多い。ちょっと質問すれば、お客さんがどんな意図で旅をしているのか、どんな情報を欲しがっているのかが分かるので、より価値ある接客ができる。なにより心理的な距離感が一気に縮まります。「人は、関心を寄せてくれる人に興味を示す」のです。

決めれらたセリフしか言わない接客(つまり、ホスピタリティの対極にあるサービス)、お客さんとのコミュニケーションを楽しまない接客は、とても残念。

「日本のホテルを利用するお客さんは、建物とか機能にお金を払うけれど、サービスにはお金を払わない」というけれど、提供サイドがお金を取れる「サービス」を本気でしようとしなければ、いつまでたっても「人的サービス」はコストで終わり、ここにお金を払ってもらえるようにはならない。



理不尽なお客さんの存在

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では、なぜこのようなコンサバなサービスしかしなくなるのか。先日取材したあるホテルのマネジャーがその答えを教えてくれました。彼は、こんなことを語ってくれました。

「100人のお客さまのうち99人が素晴らしいお客さまであっても、残りの一人のお客さまがひどく理不尽なクレームを言うお客さまであったとすると、その一人の攻撃で、99人との良い接客経験は消えてしまって、スタッフの心はやられてしまう」

結果、「余計なことはしないで、決められたことだけやって、クレームをもらわないコンサバ接客に徹しよう」となる。つまり、「カネを払う客のほうが偉いんだ」「お客さまは神様」という勘違いをしている昭和を引きずっている日本人の横柄な客の存在が日本のサービス業をつまらなくしている・・・。こういうことが原因になっていることは大いにあるのではないでしょうか。

そのホテルで働くフランス人スタッフは、「フランスなら平気で『(あなたはうちのお客じゃない)お帰りください』と言っちゃいますけどね」と言うけれど、日本ではそれができない。ホスピタリティ・サービス的なものを、もう一度見直さないと、ホテルサービスパーソンの給与は上がらないし、接客がすべてロボットで代用されるつまらないホテルばかりになってしまう。



サービスは、共創である

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サービス提供者と受給者は、サービスという価値と金銭という価値の等価交換をしているので対等関係である。サービスは無料じゃなくて有償である。お客さまはわがままが言える神様ではない。サービスとはこの両者の共創でより良いものにしていくもの・・・。私は昔からこう思っていますし、大学生やホテル専門学校生、ホテル業界人にはこう持論を伝えていますが、いくらこれがサービス提供者サイドに理解されても、サービス受給者であるホテル・旅館の利用者に理解されなければ、いつまでたっても両社の良好な関係は築けない。

そこで、今回、最も力のあるホテル評論家である瀧澤信秋氏にお力をお借りすることにしました。私は、下記のような依頼を瀧澤さんに送りました。

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ホテルや旅館を利用するお客さんのなかには、我儘で傍若無人な方が、残念ながらいらっしゃいます。そうした方への対応に、心を折られる現場スタッフも多く、ホテルのサービスレベルの低下を招いています。また、GOTOや県民割りを利用して、ホテルや旅館を使い慣れていない方々も利用されるようになり、そういった方々がわがままを言って現場スタッフを困らせる事例が増えていると聞きます。
つきましては、そうした酷いお客さんの事例を、ホテルの現場から、宿屋大学が集めますので、瀧澤さんのブログなどでご紹介いただき、「ホテルを詰まらないところにするのは、こうした勘違いして傍若無人にふるまうお客の存在」「お客さまは神様じゃない」ということを広く世間一般に広めていただけないでしょうか。
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するとすぐに瀧澤さんが賛同してくださいました。私はホテル・旅館業界の皆様から事例を集い、それを瀧澤さんに送りました。そうやって実現したのが下記の記事です。

【YAHOOニュース】
<前編>宿泊券10枚要求!? 対応を見せてもらおうじゃないの! いまホテルはこんな客に困っている
https://news.yahoo.co.jp/byline/takizawanobuaki/20201029-00205287/

<後編>過剰な客室確保?何度も予約取り直し!? いまホテルはこんな客に困っている(GoTo編)
https://news.yahoo.co.jp/byline/takizawanobuaki/20201029-00205290/


果たして、この記事は、配信日に最も読まれているニュースランキングの一位と二位になりました。


「ナイスチャレンジ!」と言える上司


「理不尽なお客さんがホテルや旅館を詰まらないものにしている」ということを感じる一方で、ホテル・旅館サイドにも大いに改善すべき点があると実感しました。
 この取り組みをしている間、こんな意見をホテル業界から頂きました。

「本当に困ったお客さまは1000人に1人くらい。多くの場合、ホテルサイドの対応に問題があるし、ホテルの努力で解決できる」

「100人中99人も素晴らしいお客さまがいたら、一人くらい理不尽なことを言う人がいても、いいんじゃないのですか。一人の理不尽客にくよくよする人は接客に向いていない」
 
私も、接客パーソンはタフさが必要だと思うのです。理不尽客に一回や二回出会ったからって、「自分のホスピタリティを諦めないでほしい」と言いたい。世の中良い人だけで成り立っているわけがないのだから・・・。

もっと、声を大にして訴えたいのは、マネジャーや経営者のスタンスです。
下記も、この取り組み期間中に業界識者K氏からいただいたコメントです。


問題が起きたとき「支配人を呼べ」みたいな時に支配人を呼んで終わった後に支配人がなんと言うか。

(A)「お前は前向きにやろうとしたんだから気にするな! もっとやっていい。謝るのはおれがやるから」

(B)「なんでそんなことしたんだ! もうやるな! バカヤロー!」

ホテル・旅館業界には、圧倒的に(B)が多い気がします。ちなみに従業員第一主義を掲げるサウスウェスト航空の場合、従業員のモチベーションが落ちるお客さまには「他の航空会社への御搭乗をお勧めします」と言っていいそうです。それが本当に意味でのESなのでしょう。

スタッフがホスピタリティを発揮して、良かれと思ってやったことが残念ながら失敗やクレームに繋がったとき、上司が「ナイストライ、ナイスチャレンジ!」と言えるかどうか、これがこれからの業界を面白くするか、つまらないものにするかの分岐点になると思います。

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