【19.09.09】連載「ホテルユニフォーム会計のトリセツ」E

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ホテルユニフォーム会計のトリセツ 目次

 ➀売上?収入?所得?売上にまつわる話
 A費用ってひとつじゃないの?
 ➂やっぱりこれが肝心…利益
 C損益計算書にだまされるな
★Dホテルユニフォーム会計の正体
 Eホテルユニフォーム会計を使っていかに暴れるか?
 Fホテルユニフォーム会計の導入
 G数値はビジネスをする上での相棒である
 Hファイナンシャルコントローラーの視点
 Iファイナンシャルコントローラーの役割


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前回までは損益計算書の基礎を売上、費用、利益に分けて横断的に説明してきました。
そしていよいよ今回よりホテルユニフォーム会計の解説に入ります。

まずは前回のクイズの答えです。
“アメーバ経営”とは、稲森和夫氏が考案した事業部別採算性の経営です。組織を小グループに分け、それぞれのグループが独立した形でビジネスに責任をもち、その集合体としての法人が存在する、という考え方であり、経営手法です。それぞれのグループ長は実質的な経営者であり、それに伴う“義務と権利”を持ち、事業を牽引する責任があります。グループを率いて結果を出すという義務がある反面、経営方針や人繰りに至るまで、ビジネスの主体として動く権利をもつことになります。

これから説明するホテルユニフォーム会計はホテルにおける事業別採算性の業績を明らかにするための“レントゲン写真=部門別損益計算書”と考えてください。

ホテルユニフォーム会計は正式には「Uniform System of Accounts for the Lodging Industry (USALI)」といい、和訳では「宿泊施設の統一会計報告様式」となりますが、本コラムでは便宜的に“ホテルユニフォーム会計”と呼ぶことにします。

歴史を紐解きますと、ニューヨーク市ホテル協会が1926年に初版を公表して以来、現在の正式名称であるUSALIに落ち着くまで複数回の名称変更と時代背景などの時流を反映させ、最新のものは11版として改訂され、アメリカ・モーテル協会が承認した宿泊業統一会計システムとなります。


ホテルの部門を縦と横に分ける



ホテルユニフォーム会計の構成はホテルの部門をその種類と性質を切り口とし、縦軸と横軸に分けて考えることができます。

まずは縦軸で3つに分けられます。

1つ目のグループは、“収益部門=プロフィットセンター”です。すなわち売上と費用の両方の要素があり利益まで計上する部門のことで、具体的には宿泊、料飲(レストラン、一般宴会、婚礼)その他(例としてはスパやスポーツクラブ、駐車場等)部門となります。

2つ目のグループは、“共通(配賦)部門=コストセンター”です。
費用のみが発生する部門である一般管理(総支配人室、経理、人事、購買)、IT,営業・マーケティング、施設管理、水道光熱などとなりそれぞれ部門として独立し、損益計算書をもつことになります。

また最後の3つ目は、“オーナー勘定”という考え方で、ホテル運営とは切り離し、所有者として発生する費用を記録するという切り口になります。例としては減価償却費(コラムその2、費用編を参照ください)、税金などとなります。

もうひとつの括りは、勘定科目をベースとした内容により横に切り分けます。同じく3つに大別され、売上、経費、そしてオーナー勘定となります。

ちなみにGOPとは「Gross Operating Profit」であり、ここでは営業利益とします。
またEBITDAとは「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」 で、ここでは税引前利益(厳密には損益計算上に表示される会計上の利益ではありません)とします。

下記が縦軸を収益と配賦部門からなる各部門の種類、そして横軸を勘定科目とそれを反映させた合計で区分けし、表現したホテルユニフォーム会計の構造図となります。詳細は次回に再度、説明します。


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管理会計とはなんぞや?



会計は2つに大別され、ひとつは“財務会計”、そしてもうひとつが”管理会計“となります。

違いは何かといいますと“財務会計”が株主、債権者、取引先などの外部ステークホルダーに対して会社法や商法に則った形式にて報告する会社全体の包括的な財務諸表であるのに対し“管理会計”は経営陣が経営計画や戦略を練る際に利用される内部資料であり多面的に細分化されており作成にあたり特に法の縛りなどはありません。

ホテルユニフォーム会計は “管理会計”をベースとした部門別損益計算書となります。総支配人や部門長が数値情報から読み解く現状認識とそれに基づき将来のアクションに活かすために用いられ、作成には一定のルールはありますがホテルにとっては重要な内部資料となります。

当然ではありますが、ホテルユニフォーム会計をベースに作られた業績表を渡されても表そのものは基本的に数値の羅列であり、アドバイスが書いてあるわけではありません。そこに内在する課題や将来的な機会についての事実やヒントは、各自が分析や検証を施し活用することになります。

その具体的な着眼点、分析方法などは今後のコラム中で触れていきますので是非、ユニフォーム会計を有効に使いホテルの価値向上、そして自身のレベルアップに役立て頂ければ筆者にとっては望外の喜びです。



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メリット、デメリットがある



万能に見えるホテルユニフォーム会計ですが物事には裏と表があるように導入や運用にあたりメリット、デメリットがあります。

先ずはメリットですが下記となります。

➀他ホテルとの業績比較が容易にできる

同じ尺度、同じ見せ方をしますので競合を含めた他ホテルとの数値的な比較ができることにより自社のホテルがビジネス的に“イケてる”か、あるいは否かの判断材料になります。またホテルが投資案件、金融商品として売買の対象になって久しいですが、ホテルオーナーや投資家などが売買価格や価値を勘案する際には非常に有益な情報となります。

➁部門別での業績が明確に分かる

部門別管理会計がホテルユニフォーム会計のエッセンスです。故に宿泊、レストラン、一般宴会、婚礼部門のどこの業績がいいのか、悪いのかが客観的に識別できます。
また各部門長は業績結果に対し責任という名の義務を負い、権利を行使して業績向上に務めまることになりますので通信簿としての役割も果たします。

B運営勘定とオーナー勘定が判別できる

現在では多くのホテルで所有と経営の分離が当たり前になっていますがホテル運営用とオーナー用での費用を分けて記録しますので、それぞれの費用が明確になります。

Cマネジメントツール

数値を通し、総支配人を筆頭とするホテルチーム全体に対し問題意識を共有する際の有効なツールになります。

他方でデメリットには下記が考えられます。

D経理処理の煩雑性

次回以降での説明にはなりますが日々の事象(取引)を部門別に分けて細かく記録をしないとユニフォーム会計として纏めることが出来ず、その強みが発揮できませんので数値を提供するオペレーション側も、またそれを受けてまとめる経理部も手間と時間がかかります。

E縦割り主義の横行

宿泊、料飲、その他部門、そしてバックオフィスでは営業、経理、人事などの部門別に
損益計算書を作成します。(バックオフィスは費用のみが計上されます)同じホテルで“同じ釜の飯”を食いながら所属している自部門のことしか考えない、考えられなくなるという思考に陥りがちです。

F不理解による現場の混乱(パッケージ、配賦)

煩雑性の一因となるのは“配賦”とよばれる経理処理です。配賦とは複数の部門に跨って行われた費用や給与に対して、ある一定の割合をもって影響を受けた部門へ費用按分することです。例えばレストラン2ヶ所、宴会・婚礼場を統括する総料理長がいた場合は、給与額をそれぞれの店舗施設に振り分けます。その振り分け額の算出方法は各店舗施設の売上按分なのか、総料理長が費やした時間に応じて按分するのかはある意味、自由(合理的な考え方による)です。厳密に記録をしようとすればするほど手間がかかり、またその合理的と思われる方法に対して全員の納得が得られない場合もあります。それが特に業績が落ち込んだ際などに紛糾し、不協和音を呼び起こすこともあります。





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現在、ホテルユニフォーム会計を利用しているホテルにせよ今後、導入を目論むホテルせよ、こうしたメリットとデメリットを経営陣、ホテルチームがしっかり理解した上で総支配人の強いリーダーシップの下、日々のオペレーションに活かすことが肝要です。


次回に向けてのクイズです。KPI(=Key Performance Indicator)とは何でしょうか?
ホテル業での代表的な指標は何でしょうか?



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