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【19.02.12】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.95)「研修を成功に導く6つの要素」
企業の経営者や人事担当者と話していて、ときどきがっかりする発言を聞かされます。「研修なんてやっても、人なんて変わるもんじゃない」という発言です。そういう発言を耳にするとき、私は心の中で、こう思うのです。
「研修では何も変わらないと主張する人は、研修の取り組み方が間違っているだけ」
確かに、安直に「研修すれば、行動変容が生まれるに違いない」と考えて取り組むだけでは徒労に終わることが多いです。でも、研修を成果に繋げるポイントを理解して、そこを確実に押さえていけば、かなりの確率で研修生の成長と現場の変化は見られます。現に、宿屋大学が主催する「プロフェッショナルホテルマネジャー養成講座」(以降、PHM講座)の卒業生は、8カ月間の受講を修了されると、ホテルマネジャーとしてのノウハウとスキルとマインドを身に着けます。そして、卒業生の多くが実力あるホテル総支配人に就任し、なかには社長になっている人もいます。
PHM講座を始めて8年になります。その間、講座の内容や取り組みに関して、毎年工夫を重ねてきました。そして、今現在、大きな手応えを感じています。
研修を成果に繋げるには、次の6つの要素があると感じています。
@ 本人の意欲と努力
A 本人の学力
B 講師&講義内容の質
C 成長・成果に繋げる工夫
D 事務局の伴走
E 経営者や職場の理解と支援
そして、これらの一つでも欠けてしまったら研修の成果は激減してしまうのです。本ブログでは、この6つを解説してみたいと思います。
@本人の意欲と努力
これは、研修の大前提です。しぶしぶ研修をやらされているというスタンスで参加する研修者が、成長することはほとんどありません。どんなに美味しい料理でも、満腹時には美味しく感じないのと同様に、どんなに優れた研修でも、勉強したくない人に押し付けても、まったく効果はないのです。
さすがに、しぶしぶ感を表情に出して研修を受ける方はほとんどお目にかかりませんが、もしそういう人がPHM講座を受講されようとしたら、お断りします。研修費や時間の無駄になるだけではなく、クラスの空気を壊すし、本気で学ぼうとしているクラスメイトの迷惑になるからです。
ただし、いまひとつ乗り気になれない研修者に事務局が働きかけてエンジンに火をつけることは可能です。ここは事務局の努力というよりは、クラスの空気感が大いに影響します。消極的な研修者が、前のめりで受講しているクラスメイトの姿を間近で見て、「自分も頑張らねば」という気持ちになっていく様子を私は数多く見てきています。本気で学んでいるクラスメイトに、みんなが引き上げられていくのです。クラスの雰囲気がそうさせています。その意味では、こうした盛り上げる演出や、活気ある雰囲気づくりは事務局の腕の見せ所だといえます。
もう一つ、意欲を維持するために必要なことがあります。ゴール設定です。何のために研修を受けるのか、研修後どうなっていたいのか、なりたい自分の姿はどのようなものかを、研修前にイメージすることです。宿屋大学では、研修前に、受講の目的と受講後のありたい姿をエッセイとして提出してもらったり、決意表明をプレゼンしたりレポートしてもらっています。そうやって「宣言」してもらうことで、自分自身と約束をさせ、共に学ぶクラスメイトに自分の覚悟を露出するのです。半強制的に、やらざるを得ない環境を作ってしまうことで、結果、本人の意欲と頑張りを引き出すことは大いに可能です。
A本人の学力
学力とは、偏差値の高さとは違います。書いて字のごとく「学ぶ力」です。吸収力といってもいいかもしれません。学生時代、自分の勉強のスタイルを築き、何かをインプットしたり、マスターしたりすることになれている人は、成長が早いです。研修のクラスの前に、事前の予習をしっかりやったり、自分なりの方法でノートをとったり、復習を繰り返したりして、学びを自分の智恵にすることになれている人は、そうでない人に比べて成長度が格段に違います。
B講師&講義内容の質
これも、当然ながら大前提の要素です。説明するまでもないですね。ただし、理論と実践を兼ね備えた講師が登壇するビジネススクールで難しいのは、「経営のプロフェッショナル」が、イコール「講師のプロフェッショナル」とは限らないということです。宿屋大学では、レクチャーによるインプットよりも、研修生が自ら考えたり、議論したり、発表したりするアウトプットによって学びを深化させる講義(「セッション」と呼んでいます)を行なっているので、講師の皆様には、レクチャラー(講師)以上にファシリテーター(学びを促す進行者)のスタンスをお願いしていますが、これはスキルが必要です。そのために、我々は慣れていない講師の先生に対しては、事務局ががっつり入って、一緒にセッションの設計をしています。
C成長・成果に繋げる工夫
宿屋大学を法人化してはじめたころ、私は、「ビジネススクールの実力は、どれだけ優れた講師を呼べるかどうかがすべて」と勘違いしていました。上記の通り、もちろん講師や講義内容の質は大前提なのですが、それと同じくらい重要なのが、「学びを成長・成果に繋げる工夫」です。では、宿屋大学は、具体的にどのような工夫をしているか。たくさんあります。
一つは、学びをずっと持続させること。学びはクラスのセッション時間だけではなく、事前の予習や事前課題をしっかりやっていただく。そして、振り返りレポートや事後課題も提出していただきます。さらには、学んだことを職場のチームに伝えたり、実践していただくということを促しています。
二つ目は、学んだことを何度も思い出してもらうことです。人は、学んだことも、思い起こさないと、すぐに忘れてしまいます。学んだことを、自分の理解として誰かに伝えたり、実際にやってみたりして、初めて「学んだ・理解した・自分の智恵になった」と言えるのです。「分かった」と「できる」は、次元がまったく違うのです。成果という投資効果がなければ、社会人の研修というものは意味をなくします。
三つ目は、やらざるを得ない環境を作ってしまうことです。宿屋大学では、オンライン上にクラスメイトと講師と事務局のコミュニケーショングループを作り、クラス以外の時間も、ここでコミュニケーションをしていますが、セッション終了後24時間以内に、「振り返り」をアップしてもらっています。さらには、その振り返りに、クラスメイトがフィードバックのコメントを付けてもらうのです。クラス全員で、一人一人の学びと成長を伴走するイメージです。
四つ目は、最終プレゼンテーション会です。数カ月間にわたる研修の集大成として、クラスメイトや講師、そして自分を送り込んでくれた経営者や人事部長の前で、「自分はこんなことを学んだ、こんな事業を今後やっていきたい」ということをプレゼンテーションしてもらいます。
そのほかにもまだまだ成果に繋げる工夫はありますが、良質なコンテンツの提供以上に、学びをしっかり成果という投資効果に繋げる工夫はビジネススクールや研修会社のキモだと思っています。
D事務局の伴走
研修は、講師と研修者という二人の関係だけでは、その成果は限界があります。事務局が研修の伴走者、あるいはメンターになって、研修・成長・成果を目指して一緒に走ることが大切だと思っています。研修者も人間ですから壁にぶつかってへこんだり、理解ができずに落ち込んだり、怠けてしまったりすることがあります。そんなとき、励ましたり、手を引っ張ってあげたり、必要な栄養を与えてあげたりする伴走者が必要なのです。宿屋大学では、6〜7人に一人の伴走者をつけて研修の最後まで一緒に走るようにしています。クラスでのサポートやオンライン上でのやり取りだけではなく、ときには二人だけでお酒を飲んで語り合ったりします。もう、ここは、同じ業界にいる同志という間柄、深い関係性を築き、生涯お付き合いする友人になります。
さらには、その伴走者が、研修者の上司や人事担当者とコミュニケーションをして、企業と一緒に研修者の学びをサポートています。
E経営者や職場の理解と支援
研修が失敗に終わる典型的なパターンの一つに、「研修者独りが頑張る」というケースがあります。研修者はモチベーションが高く、研修で熱くなり、大いにインプットするのですが、現場は、それにまったく関与せず、時には「この忙しいときに、なに研修なんて受けてんの。あなたの分までこっちは忙しくなっちゃたじゃない」といった感じで接すると、熱くなって帰ってきた研修者も急激に冷めてしまい、実践するどころではなくなるのです。結果、研修の成果がゼロということになります。
研修の成功を支える要素の、かなりの部分が、「職場環境」にあるといえます。上司の理解、共に働く同僚の理解が不可欠です。つまり、研修者が独りで頑張るのではなく、上司も同僚も、「みんなで頑張る!」という環境を作ることです。
そのために、宿屋大学では、研修の最中に、2〜3回、伴走者が企業や現場に出向き、上司や人事部長、現場のスタッフに会いに行って、「〇〇さんは、いま、こんなに大変な研修を受けています。そして、課題として学んだことを実践してもらったり、現場の方々にシェアしてもらったりという試みをお願いしています。どうか、〇〇さんのご支援、よろしくお願い申し上げます」と頭を下げてきます(「家庭訪問」と呼んでいます)。
企業経営において、特にホテルのようなサービス業の経営においては、人的資源という経営資源が最も大切なものです。今いるスタッフの価値を高める「研修」を、ホテル業界の経営者の皆様や人事担当者の皆様には、どうか諦めてほしくないのです。これまでやってきた研修が効果を発揮しなかったのは、やり方が違っていただけであり、地味で愚直な努力という下支えのもと、正しいアプローチとプロセスで研修を行えば、必ず人は変わります。大きな行動変容を起こし、それが企業経営にとって大きな価値を生み出してくれるのです。