【18.09.30】人材シリーズD「スタッフの幸せ度合いと、生み出す価値の総量は正比例する」 

         

シリーズ「ホテルにおける超人材難時代の人の育て方」の五回目は、「社員の幸せ」にフォーカスします。社員の離職が激しいホテルを見るにつけ、そのホテルの経営者やマネジャーは、「なぜお客さまや上司に使うホスピタリティマインドを、部下や後輩に使わないのだろうか」と疑問を抱きます。ES(社員満足)がCS(顧客満足)をつくり、CSが収益をつくるというサービスプロフィットチェーン理論が周知されているにも関わらず、いまだにスタッフをコマとしてしか考えなかったり、人間扱いしなかったりするホテル経営者やマネジャーがいるのは、驚くばかりです。今回は、「ホテル経営はスタッフの幸せが原点」というポリシーでいくつものホテルの総支配人を務めた、宿屋大学の秋元達也顧問が、「ESが健全なホテル経営をする大前提となる」論理を伝えます。

                         ●文・宿屋大学 顧問 秋元達也



マネジャーとは、人を育てられる人のことを言う


私が現役のホテル総支配人だったとき、ホテル運営を何から始めたかというと、「社員の幸せをどうつくっていくか」を考えることからでした。私は4つのホテルで総支配人という職を担いましたが、どこも、社員の幸せから取り組んだ結果、CSも利益も向上した経験があります。このことをホテル経営者に知っていただき、行動に移すきっかけになればと思い、今回ブログの一パートを担当しようと思いました。

大前提として、マネジャーの必須要件には、「人を育てる」というタスクがあります。
「マネジメントができる」ということは、人材を育てられるということです。人を育てられるマネジャーこそ評価し、昇給させていくべきなのに、多くのホテルでは、@経験年数が長い、A接客技術が高い、B上司の方ばかり向いている、Cお客さまにだけはいやに愛想がよいといったマネジャーばかりが評価されているのが現状ではないでしょうか。こうしたホテルでは、部下を育てることを重要視しないのです。

人を育てられないマネジャー、その人の下で働く人はいつも辛い顔をして仕事をしていたり、離職が続くといった状態のマネジャーは、経営者がしっかり対処しなければいけないのです。サービスマンとして優秀であっても、マネジャーとしては失格です。決して放置してはいけません。

ソリューション(解決策)は、シンプルです。
評価制度のなかで、「部下を育てられているか」という項目を設け、それを重視する評価制度にすればいいのです。

もちろん、経営者というリーダーが、「スタッフを大切に思う気持ちを持ち、リーダー自らスタッフを育てることを優先する」スタンスを持たなければ何も始まらないことは言わずもがなですが。売上・利益が伸び悩んだり、予算未達に陥りそうになる時というのは、利益にばかり目が行きがちですが、経営者たるもの、サービス業の場合、売上・利益というのは、スタッフがつくっていることを肝に銘じ、スタッフの幸せを追求することを自分のミッションに置くべきなのです。

人は、必要とされると自分は意味のある存在であることを感じて幸福感を得ます。
よいチームの中で、助け合いながら仕事ができていると自分の居場所を感じて幸福感を得ます。
感謝されたり褒められても幸福感を得ます。
給与や休みも大事ですが、お金のかからない上記のようなマネジメントの対応も、とても大事なのです。


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社員が幸せであることの経営的な意味


では、社員が幸せであると企業経営においてどんなメリットがあるかを考えてみたいと思います。私が改めて述べるまでもないことばかりですが。

@自発的に動いてくれます。幸せなスタッフが仕事をすると、上司からの指示を待つのではなく、自分で考えて、お客さまのため、会社のために、喜んで働いてくれます。

Aハッピーが循環します。ハッピーオーラを振りまきながら、笑顔で仕事をすると、それが伝播します。空気感染するかの如く、スタッフやお客さまにも伝わっていきます。

B離職率が下がります。「新規スタッフ募集」をする必要が少なくなり、その面での経費が削減できます。また、「離職率が低い」という事実は、その会社のイメージが良くなり、入社希望者が増え、質の高い人材が集まります。採用ばかり努力しているホテルをよく見かけますが、採用にかける手間暇コストよりも、離職を減らす手間暇コストの方がよほど少なくて済むのです。




CSのためのESではなく、ESのためのCS


「ES」を最優先させているホテル企業の事例を紹介します。
このホテル企業は、宴会場を敢えて持っていません。なぜ宴会場を持たないのか。選択と集中という考え方もありますが、一番は、ES維持のためです。宴会場で夕食を取った後の光景を思い浮かべてください。「酔っぱらって大声を出す」「スタッフに絡む」お客さまの光景が容易に想像できるのではないでしょうか。スタッフに余計なストレスを与えないようにしているのです。こうすることによって仕事の集中力を、最も来ていただきたいお客さまに向けることができるのです。結果、CSが上がります。

一般的な考えですと、「ESは、CS向上のために行なう」のですが、この企業の場合、「ESのためにCSを向上させる」のです。ホテルで働く人のモチベーションは、お客さまの喜びから生まれることが多いからです。


生み出す価値の総量は、スタッフの幸せ度合いと正比例する


サービス業においては、スタッフは労働力でもあり、商品でもあります(お客さまはスタッフの応対でホテルの質を判断しますから)。少しでも多くの利益を出すには、スタッフたちが最大の力を発揮できることが望まれます。その力を引き出すのは、リーダーの考え方、行動力がすべてです。私は、スタッフたちが創り出す力(価値)の総量は、スタッフたちの幸せ度合いと正比例すると確信しています。スタッフたちの幸せが経営の原点であると認識し、覚悟を持って臨めるか、経営の成否は、このようなリーダーの胆(たん)にかかっているのです。



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●秋元達也プロフィール

大学卒業後、ホテルオークラ入社、レストラン・宴会関係を現場で経験、郊外型レストランにてオペレーション、マネジメントを経験。退社後、ホテル事業家を目指し、レストラン会社を共同で立ち上げ経営をしたが、2年間で失敗を経験。その後ANAエンタープライズ(株)に入社、京都全日空ホテルの開業準備、開業後料飲部統括、東京全日空ホテルにて宴会関係、宿泊関係の現場を経験し、宿泊部長、料飲部長を歴任し、マネジメントをしっかり経験・教育される。その後、万座ビーチホテル(沖縄)、松山全日空ホテル、千歳全日空ホテル(北海道)、成田全日空ホテルにて総支配人を経験、定年退職後、住友不動産ヴィラフォンテーヌ(株)入社、直営15ホテルの運営責任者を経て、ホテル・旅館のコンサルタント「エーエム・ワークス」にてパートナーとして活動、主に地方のホテルに対してのコンサルを実施。2017年、宿屋大学顧問に就任、現在に至る。



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