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【15.09.15】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.92)
日本発ビジネスホテルの競争優位性 〜ソウル進出の日系ホテル経営者に聞く日本の強み
日系宿泊主体型ホテルの海外進出が目立っています。東横インが韓国、プノンペン(カンボジア)、そしてマルセイユ(フランス)に、ドーミーインがソウルに、カンデオホテルズがハノイ(ベトナム)にホテルをつくっています。高度成長期からバブル期までも、日系ホテルの海外進出は多くありましたが、そられはみな海外を旅したり出張したりする日本人を主要な顧客としたホテル展開でした。しかし、現在の潮流は、日本人需要だけに頼らないビジネスホテルの展開です。
9月11日〜12日の二日間、ソウルに行く機会があり、せっかくなので時間をつくり、日系ビジネスホテル3社(ドーミーインプレミアムカロスキル、ソラリア西鉄ホテルソウル明洞、東横イン)を巡って話を聞いてきましたので、レポートしたいと思います(東横インは、担当者がいらっしゃらず、後日東京で黒田社長を取材します)。
日本独自のサービスが徐々に評価
最初に訪問したのは、今年5月に開業したドーミーインプレミアムカロスキル。こちらのホテル事業部長兼総支配人の尹鍾根(ユンジョングン)氏に話を聞くことができました。尹総支配人は立教大学観光学部卒業、その後日本のいくつかのホテルで働き、日韓両方を熟知したホテリエです。「日本式の宿泊主体型ホテル、ひいては御社の強みはなんでしょうか」と聞いてみたところ、次のように答えてくれました。
「まずは、完成されたハードの素晴らしさと機能的なスペックです。考えつくされたレイアウトの客室、超軟水の大浴場、シモンズやサータ社製のベッドなど、すべてにおいて競合ホテルよりもクオリティには自信を持っています。あとは、朝食です。日本から来た料理人が旬の食材を使ってつねに70種類以上の料理を丁寧に作っています。韓国の宿泊主体型ホテルの多くは、軽食程度の朝食のしか提供せず、あまり力を入れていませんので、当社の朝食は圧倒的な魅力になっていると思います。チェックイン時の『おしぼりサービス』も好評です」
日本においてこの「宿泊主体型ホテル」というセグメントはますます競争が激化し、結果成熟していると思いますが、そのおかげもあって、そのクオリティやコストパフォーマンスは群を抜いているのでしょう。
尹総支配人は続けます。
「あと、面白いことに、日本ならではのサービスが徐々に日本人以外の方にも受け入れられてきているんですね。例えば、『夜鳴きそば』。当初喫食率は10パーセントほどでしたが、今では行列ができるほど皆さん楽しんでいただいています。大浴場もしかりです。口コミを見ると外国人の方が大浴場の体験を嬉しそうに書いてくれています」
注目ポイントは、日本の同ブランドをそのまま持ち込んでいることです。現地に迎合しなかった。例えば、16uというスタンダードシングルルームの広さは、こちらでは狭いというコンプレインが出るだろうと予測していたけれど、敢えて16uを死守したそうです(韓国は20〜25uが当たり前だそうで、実際書き込みを見ると狭いことによるコンプレインは出ているようです)。なぜなら、そこに同社のこだわりがあって、このサイズだからこそ、必要なものがコンパクトにレイアウトされているために、部屋の中をあちこち動かなくても済むからだそうです。「夜鳴きそば」にしても、日本と同じ醤油味を貫いているとのこと。
日本のスタンダードが、海外ではハイレベル
続いて、9月12日に開業したばかりのソラリア西鉄ホテルソウル明洞の代表理事社長兼総支配人の石田崇宏氏に話を伺いました。石田社長は親会社の西日本鉄道出身、7年前からホテル事業を担当しています。同様に「日系ビジネスホテルの強み」についてです。
「やはり、なんといっても丁寧で正確な仕事にあると思います。日本人は、どんな単純作業でも手を抜くことなく一生懸命やります。おもてなしとかホスピタリティということ以前に、日本のホテルのスタンダードの接客オペレーションを海外に持ってくるだけで、十分高品質なホテルとして受け入れられます。あと、日本のビジネスホテルはマルチタスクが当たり前ですが、韓国ではまだまだ分業制です。マルチに動ける仕組みも優位性だと思います。当社では29人のスタッフのうち9人が日本人ですし、韓国人のスタッフも、開業する前に日本に派遣して十分な研修をしてもらいました。日本の高品質の接客とオペレーションをここでも提供していきたいと思っています」
私は、同ホテルに宿泊させていただいて驚いたことがあります。てっきり新築ホテルかと思ったのですが、元は古いオフィスビルだったそうで、それをリニューアルしてホテルにしたのだそうです。この建築デザインの技術も日本の優れたポイントかもしれません。また、同ホテルは明洞というソウルで最大規模の繁華街の中心にあるのですが、こんなに好立地の不動産物件の更地が出ることはあり得ないとのことでした。それでもたぐいまれなる好立地にホテルを開発できたのは「日本のホテル企業の開発力のなせる業」と言ってもいいかもしれません。
仕事に美学やアイデンティティを抱く日本人
最後に、ソラリア西鉄ホテルソウル明洞の21階にあるメインダイニング「THE GARDEN」を運営する(株)MARKT(マルクト)代表取締役の呉基成(オキソン)氏に話を伺いました。呉氏は、在日韓国人三世。プランドゥシーでホスピタリティビジネスの経験を積んだあと、福岡・天神に二年前に「THE GARDEN」を独立開業しました。宿屋大学の第一回「プロフェッショナルホテルマネジャー養成講座」を受講してくださった青年実業家です。日韓両方を知る呉氏は、日本のホスピタリティ企業の優位性はどこにあると感じているのでしょうか。
「商品力です。レストランでいえば、料理や飲み物だけではなく、スタッフの心遣いや雰囲気、BGM、内装といったもの全体で醸し出す『居心地の良さ』には絶対の自信を持っています。そこでポイントとなるのが、『そのまま持ってくる』ということです。変に迎合して変えない。自分がいいと思う自分たちのスタイルを信じて、それをそのまま海外でも伝えることです。そのプライドと自信が大事です」
やはり、呉氏も日本人の特徴は、高品質にあると考えているようです。
日本人の仕事観やこだわりは、おカネの多寡よりも、自分のアウトプット(仕事や創り出す製品)の質にあるのだと思います。仕事に対する矜持が強い。アウトプット(仕事)そのものに、自分のアイデンティティを映すのだと・・・。そしてそれは、誰でもできる単純作業や、低賃金労働においても同様なのでしょう。さらには、アウトプットだけではなく、「勤勉に働くという」、働くプロセスにもアイデンティティを映したり、またはそれが評価対象になっていたりするからかもしれません。
要するに、働くという行為自体に、国民みんなが「美学」を持っている。だから、結果としての「数字」よりも、「勤勉に働くプロセス」に重きを置いてしまう。結果、一見非効率な働き方をしてしまい、効率的に働くことは「手抜き」とみなしてしまうのかもしれません。
結果や利益にこだわる米国人と、仕事やそのプロセスの質にこだわる日本人では、そもそも目指すものやモノサシ(価値観)が違いますから、協働する際は、そこのすり合わせをしないと話がかみ合わなくなります。
個人的には、日本人のこの「当たり前のことを、当たり前にしっかり丁寧に行なう」という特性(列車が時刻表通りに運行され、街はいつもきれいに保たれ、約束はきちんと守る国民性)は、ラグジュアリークラスのホテルよりは、宿泊主体型クラス(3〜3.5星?)のグレードのホテルで発揮すると思っています。ラグジュアリークラスのホテルでもその品質は維持できると思いますが、プロセスを重視する特性によってコスト高になり、利益が残らなくなる可能性が高くなります。
このような考察からも、今後世界展開していく日本のホテル企業というのは、製造業のように決められたことを決められた通りに丁寧にやり続ける日本人の特性が行かせる「宿泊主体型ホテル」にあるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
また、あるホテリエ(同じく日韓双方のビジネスに精通している方)から聞いた話で面白かったことがあります。そのホテルでは「価格を変動させていることへのコンプレインがある」とのことで、その部分で言えば、いつも同じ価格で泊まれる安心感のある東横インは評価が高いのだとか・・・。
もう一つ、その方に「日本の弱み」を聞いたところ、「日本は品質にこだわって、高性能で高機能な商品力は高いけれど、こと『売る』ということについては、韓国の方がうまいと感じています。韓国ではビジネスホテルでも営業担当者は5〜6人もいて、一生懸命法人営業しています」と話してくれました。
日本は、スタッフのレベルが高いゆえに「マネジメント」が弱いのと同様に、モノや製品の質が高いがゆえに「売る」が弱いのかもしれません。
推論の域を脱しない考察ですが、取り急ぎ、在ソウル日系ホテル取材レポートでした。