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【15.04.28】「ホテル総支配人の6つの力」 by 福永健司氏 第四回「体力」
「総支配人が身に着けるべき力」を6つに絞って紹介している当コラム。第4回のテーマは「体力」です。「当たり前じゃないか」とお思いかもしれませんが、欠かせない力のひとつですし、お伝えするに値するお話です。
ひとつのホテルを開業させるには多くの英知と労力と時間を要します。
そして、ホテルはひとたび開業すると今度は24時間、365日、文字通り年中無休の日々となります。
当然ですが、総支配人がすべてを管理できるわけではないですし、四六時中、ホテルの現場に居られるわけではないものの、最終責任、最終権限を持つ以上、総支配人は実態として「ホテルが自身の身体の一部になっている」といっても過言ではありません。
これは課された責務とはいえ相当に過酷ではあります。そのためにも総支配人は健康であり体力があることを求められます。自身のためでもありますが、ゲスト、スタッフ、そしてスタッフの家族、取引先、オーナー、株主を含めたホテルを取り巻くすべての人のために自身を律し、つねにベストの状態でいることが必要なのです。
総支配人が“公人”と呼ばれるのもそのためです。
風を感じ、起伏を感じ、ゴールのタイムを考慮しながら一定のリズムで設定された距離を走る。体力と気力との闘い。そうした意味では総支配人の役割・業務とはマラソンのようです。
ただし、求められるものはそれだけに留まりません。そのほかにもさまざまな状況の中でバランスや能力が求められます。まるで混合十種競技(100m走、走幅跳、砲丸投げ、走高跳び、400m走、110mハードル、円盤投げ、棒高跳び、やり投、1500m走をカバーする)や異種格闘技といった競技に近いです。
なぜならば、自身の専門エリア(オペレーションであったりセールスであったり)をベースに、ホテルのすべてのエリアを万遍なく網羅する知識とスキルを求められるからです。
またITの発達により24時間のコミュニケーションが可能となり、グローバル化が加速した現在、時差を越えた繋がりが容赦なく降りかかってきます。ホテルのオーナーが欧米在住だとしたら、夜中のミーティングも当たり前に発生します。まさに体力勝負ということになります。
肉体的な健康に裏打ちされた精神的な安定とエネルギー
『広辞苑』では「体力」を「身体の力」、または「疾病に対する抵抗力」と定義しています。体力の話になると女性が圧倒的に不利に聞こえるかもしれませんが、筋肉隆々なボディビルダーというような、見せる筋力=体力ではなく、総支配人には判断や対応など瞬間的なスピードやしなやかな柔軟性、丁寧さも求められるので、性別に関係なくマルチな体力を養い維持する必要があります。
現在、錦織選手の活躍で大いに沸くテニス界ですが、ご存知のようにテニスコートには大きく3つの種類(タイプ)があります。グラスコート(芝)、クレイコート(砂)ハードーコート(コンクリートにゴム加工)の3つです。テニスの世界4大タイトルはこの3つの種類のコートの特性を理解し戦略を練り、勝たなければなりません。
すなわち剛柔使い分けた体力、知識、スキルそして精神力がなければなりません。
敢えてこの例に照らし合わせれば、総支配人もラグジュアリー、アップスケール、セレクトサービスと複数のホテルタイプでその役目を果たすわけです。肉体的な体力も大切ですがその上で更に必要なのが精神的な体力です。
「健全な肉体に健全なる精神は宿る」
これは、誰でも一度は聞いたことがあるフレーズだと思いますが、肉体的な健康に裏打ちされた精神的な安定とエネルギーこそが重要であり自身を律し、健康と体力の維持、向上こそが怒涛の如くおしよせる日々の決断・判断の源になり、それが結果、自身の信用と信頼を築きあげていくことになります。
二人の賢人がこう言っています。
これまでの私の連載コラムの内容に異議をお持ちの総支配人もいらっしゃるかもしれません。しかし、これだけは同意いただけると思います。
「総支配人は孤独である」
結果を求められる役割ですから、当然のことです。
周囲に優秀であり誠実な部下がいても、家族がいても、友人がいても心の支えや手助けを得られても本質的な孤独から解放されることはありません。24時間、365日、眠らないホテルという舞台を牽引するにはそれが求められるからです。しかるに体力の維持向上を前提とした健康管理と孤独に耐え得る精神力は総支配人の要件でなく義務となります。