【14.11.11】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.89)

日本には「旅館」がある


 二年くらい前でしょうか、「グローバルホテルマネジメントの手法がどこの企業でもさほど変わらず(差別化要因がなく)、コモディティ化してしまっている」という話をいろんなところから聞くようになったあたりからだと思いますが、私は「旅館」という存在に注目をし始めました。その理由は二つあります。
 ひとつは、「日本のホテル企業は、なぜ海外でホテルを増やせないのだろうか」ということ疑問を抱いたことです。トヨタ自動車やソニーをはじめとした製造業の企業は海外で大きなビジネスを展開しているし、世界中で名前が通ったブランドになっているのに、「おもてなし」がお家芸とされている日本のホテル企業が世界で活躍できないのはなぜだろうかということです。そして、「どうしたら日本発のホテル企業がグローバル展開することができるだろうか」、別の言い方をすれば「日本のホテル企業の競争優位性とはなんだろうか」ということを考えるようになりました。
 もう一つは、旅館の軒数が激減している事実、宿屋大学を受講される方に旅館経営者や旅館の女将さんが増えて、そういった方々の苦しい経営状況を知って注視するようになったことです。

 下記の図をご覧ください。





 ジョーンズラングラサールホテルズの統計資料ですが、これによると、旅館の軒数は過去10年間で1万6000軒減少しています。ざっくり言うと日本には旅館が5万軒あり、ホテルが1万軒あります。けれども、客室数でいうとどちらも80万室です(2010年、この年にホテルと旅館の客室数が逆転しています)。平均を考えてみると、ホテルは平均80室で、旅館は16室になります。そして、日本の旅館の多くは独立系の家族経営(事業ではなく家業として経営している)であり、そのほとんどが20室ほどの小規模であるということです。
 旅館というものが数を減らし続け、脆弱な経営を強いられている理由のひとつはこの「小規模」であるということが挙げられます。そのほかには、借入による利息支払いの負担、継承者がいないこと、建物の老朽化などなどがありますが、最も大きな理由は近代経営の手法がないということだと思います。
 そこを巧みに研究し、独自の経営手法を編み出して成功しているのが「星野リゾート」です。分業制からマルチタスクへの変更、料理の工夫、魅力づくり、マーケティング戦略、顧客満足の科学的分析などなど、実にほれぼれする経営革新をされて軒数を増やし、規模の経済を効かせ、ブランド展開に成功しています。星野リゾート以外にも、湯快リゾートや大江戸温泉物語など、勢力を伸ばしている旅館チェーンが増えていますが、まるで30年前の小売業界を見ているようです。街からタバコ屋や八百屋が姿を消してスーパーやコンビニばかりが目立つようになった変化と、いまの旅館業界はそっくりです。
 つまり、私は日本発の宿泊ビジネスが世界で勝っていくにはどうしたらいいかということと、衰退し続ける旅館を支援するにはどうしたらいいかという二つのために「旅館ビジネス」を研究したいと考えるに至りました。

11月7日に開催した宿屋塾「星野リゾート式経営を考える 〜星野リゾート出身の旅館再生コンサルタント」は、超満員となった


 そんなとき、現れたのが旅館総合研究所の重松正弥所長です。
 重松氏は、拙著『巡るサービス』を読まれ、ホテルグリーンコア流の経営手法に興味を示され、宿屋大学とグリーンコア共催の講座である「ホテルイノベーション研究会」を受講されました。その後も、宿屋大学の講義を数多く受講されていますが、最近では氏の豊富な経営の経験やビジネススクール受講経験から、逆に宿屋大学に様々なアドバイスをくださっています。いまや、大切なアドバイザー兼パートナーになっています。
重松氏は、前職の星野リゾートで旅館再生を豊富にされてきていますが、効率化・生産性向上至上主義ではありません。日本の旅館が古くから持つウェットさや、ホスピタリティ・ロジック的運営を尊びます。近代的な旅館経営手法と、人と人とのつながりを大事にする旅館の本質的な哲学を併せ持った旅館経営を目指されています。
 そんな旅館総合研究所と宿屋大学がタイアップして、来春から始めるのが「旅館経営実践講座」です。旅館経営者や継承者のみなさまと一緒に旅館経営を体系的に学ぶ一年間講座です。これまで通り、プロフェッショナルホテルマネジャーの育成支援という柱と共に、来年からは旅館経営者育成という柱も育てていきたいと思っています。
 旅館経営にご関心のある方、ぜひご一緒しませんか?

●「旅館経営実践講座」
  http://yadoyadaigaku.com/program/PR1401.html
  

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