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【14.08.11】第七回「日本のおもてなしは競争優位になるか 〜シンガポール×ホスピタリティビジネス〜」 by 臼杵さおり(シンガポール在住)
第7回 「いいサービス」の定義が変わった
1、10年前のサービストレンドを引きずっていないか?
ファッションに流行があるように、サービスにも流行がある。目に見えないので、そのサービスが時代遅れかどうかは分かりづらいです。しかし時代遅れのサービスは着実に経営体力を奪っていく気がします。例えば10年前のトレンド、「ハイorロー」「個人」「便利」を今も続けてしまってはいないでしょうか。
「ハイorロー」(高級か激安)…伝統やストーリーのない見た目だけの高級感はすぐに見破られてしまう。また異常に安い旅行商品や品物には誰もが多かれ少なかれ痛い経験をしているので、こちらも敬遠されてしまう。一回限りの利用であれば通用するが、2回目の利用や口コミの評判は難しい。
「個人」…今でも通用しそうなキーワード。要注意。今、一番元気なのが、個人より趣味や愛好家のグループ。ビジネスグループのように閉鎖的でなく、オープンな集団。個室が多いレストランや、密閉感のある空間は演出でカバーし、宴会場のような大空間を区切って使用する場合は空間全体がいい雰囲気になるように動線などを工夫する必要がある。
「便利」…最も危険なキーワード。スマホで何でもできる時代に「便利さ」「ITよる快適さ」だけを追求したものは逆に人を不快、不自由にする恐れも。「申し込みはネット、変更・解約は直営店の店頭でないとダメ」や、操作が難しいタッチパネル式のエアコン調節機などがその典型。
2、今、サービスのトレンドは「無意識型」
これに対し、現在は顧客が頭を使ってアレコレ考える必要のない、ただ感じればいい、「無意識型」サービスがトレンドではないかと見ています。右脳型、五感型とも言えます。デジタル機器の操作や人間関係など、思考を伴う煩わしいことからの解放を促すサービス。これを「おいしい、楽しい、心地いい」というキーワードでまとめてみました。
「おいしい」…口に入れて即、幸せを感じること、またお得である、値段以上の価値があること。
「楽しい」…ラクをさせてくれる意味と、純粋にfun、エンターテイメント性が高いということ。
「心地いい」…自分の体や感覚にフィットしていること。
「おいしい」に関しては、安全、健康的、オーガニックなどの本質的な食がトレンドですね。もしくは、「おいしそうなもの」、例えば、とにかく見た目がかわいいスイーツ、斬新な調理法や、華やかな盛りつけのお皿などです。視覚に訴え、思わずSNSにアップしたくなるようなフォトジェニックなものが人気です。
「楽しい」に関しては、USJやハウステンボスの新規アトラクション、プロジェクションマッピング、カジノなど、エンターテイメント性溢れるものも注目されています。家まで届けてくれるネットショッピングや、お掃除ロボなど、「ラク」させてくれるサービスも広がっています。
「心地いい」とは、「心」「体」「思考(頭)」の3つがバラバラになっている状態から、三位一体となった自分本来の状態に戻っていくときの感覚です。スポーツ、リラクゼーションの他、アイドルのおっかけ、フィギア集めなど、フィーリングが合う仲間同士の一体感もまた「心地いい」ことの一つです。
色々取り組んでいるのに成果が出ない場合、トレンドとのズレが根本にあるのかもしれません。
3、「あ、ここは自分の居場所だ」と感じられるのが、いいサービス
「おいしい、楽しい、心地いい」と無意識に感じてもらうには、「お客様のために」というサービス提供側の意図を消す必要があります。
例えば、非日常を味わいに、田舎の温泉宿まで来たのに、スタッフは標準語で話し、料理の説明もよどみなく完璧であったら、少し寂しくはありませんか。その土地の言葉で話したり、料理を運んだ際には「わー初めて見るこの食材はなんだろう?こちらの特産かな」と相手が感じるまで待ってから説明するなど、一呼吸おいてもらった方が、落ち着きます。
「いいサービス」の定義は、この10年で変わりました。一番の変化は「完璧なサービスを「する」ことから、心地よいと「感じる」サービスへ、つまりサービス提供者主体から受け手主体へ、サービスの良し悪しを決める判断主が移ったことです。
そうなると、サービスの主体はあくまでお客様です。お客様の感性が加わって初めて一方的なサービスから「ホスピタリティの場所」へ変わります。サービス提供側がその場の全てを支配せず、一分の「隙」「余地」を残しておくと、お客様は自分でそこに自分の居場所を作ります。そして自然に自分の話をはじめたら、それが、ここが気に入ったよ、というサインです。
スタッフに、「最近、いいなと感じるサービスに出会った?」と聞いてみてくだい。きっと何か無意識型のサービスに出会っていると思います。無意識に幸せを感じる要素を、今度は自分たちのサービスの中に見つけ、それを磨いていくと、理想のお客様が来てくれるかもしれません。人はいつでもどこでも自分の居場所を探しているものです。あなたのサービスの中に、お客様が心地よいと感じられるスペースを空けておいてください。
※写真はすべてイメージです。