【14.07.09】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.85)

いま自分が働いているホテルを後輩に勧められますか?


 先日、某ホテルの20代前半のホテルマンに会ったときに次のような質問をしました。

「いまあなたが働いているホテルを後輩に勧められますか?」

 その男性ホテルマンは東京YMCA国際ホテル専門学校の卒業生、彼が働くホテルを志望する在校生が多く、就職指導を担当する私がそのホテルを、自信を持って就活生に勧められるかを確かめたかったのです。
 すると、とても残念なことに、彼は首を横に振ったのです。「いや、勧めたくないです」と言いながら・・・。
 このホテルの社員満足度はそれほど低くないと思っていたので、彼が言う実態を耳にしたときは意外でした。そして「業界全体はどうなっているのだろうか」と心配になりました。
 私は過去20年ほどの間、ホテル志望の学生の就職の支援をし、「一緒にこの業界を盛り上げよう」と背中を押して数百人もの若者をホテル業界に誘ってきた経緯があります。彼らの人生の数パーセントは私にも責任があります。宿屋大学は業界人の人生を応援するというミッションを掲げていますので、ホテル業界人が幸せにならないと私の仕事は世の中のためになっていないことになります。
 
 
 そこで、実態調査をしました。
 宿屋大学やオータパブリケイションズのメルマガ、リクラボのメーリングリストを活用し、2014年6月13日〜20日までの一週間で下記のようなアンケート調査を行ないました。
有効回答数は116。性別は、男81人、女35人でした。20〜25歳が23 人、26〜30歳が8人、31〜35歳が21人、36〜40歳が22人、41〜45歳が17人、46〜50歳が13人、51歳以上が12人でした。


質問1「いま自分が働いているホテルを後輩に勧められますか?」

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 結果は、ほぼ半数が「勧められる」と答え、5人に2人が「勧められない」と回答しました。
 もしかしたら、宿屋大学やオータパブリケイションズのメルマガを見ている方々はモチベーションが高い人が多く、業界全体の実態を表していないのかもしれませんが、半数が「勧められる」と回答したのには少し意外でした。

 この結果を、今度は「性別」・「年代」別にグラフにしてみました。
 計算方法は、次のようなポイントにしてその合計点を出しました。

 自信を持って勧められる           2ポイント
 自信はないがどちらかというと勧められる   1ポイント
 どちらともいえない             0ポイント
どちらかというと勧められない        ‐1ポイント
絶対勧められない              ‐2ポイント



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 明らかに、男性の方が女性よりも「勧められる」と回答(≒満足度が高い)しています。
 また、どちらも、20代では値が高く、30代前半で急に低くなり、30代後半で高まり、40代前半で下がり、40代後半から再び上がっています。
 ホテル業界は、30代前半と40代前半というミドル層の満足度が低いことが問題と言えそうです。


質問2(1)「勧められるのは、なぜですか」


 続いて、質問1の回答で「自信を持って勧められる」と回答した人に、その理由を聞きました。主だったものを箇条書きで紹介します。

●やる気と情熱があれば平等公平に評価されるから
●やり甲斐のある仕事をさせてもらっているから。
●仕事を通して知識・経験・人間性と本人自身が成長できる環境が弊ホテルにはあるから。
●働いていること、チャレンジできる環境が自信をもって幸福だと感じているから。
●キャリアについて熱心であるし、日頃から頑張る人には誰かが見ていて機会がある。
●給与は透明性あり他社より優れている。会社の事業計画を開示しているのでわかりやすい。それが安心感につながる。
●人間関係がいい、良い人が多い。良い人が良い人のまま仕事が出来る背景には、労働基準法が守られている事もあると思う。管理職の方々を除いては恐らくサービス残業も殆どない。残業自体も他と比べると少ないと思われる。その様な環境がスタッフ1人1人の余裕に繋がっている気がする。
●ホテルへの愛着があるから
●やりがいがあるから。楽しいし、やっていることに対してちゃんとした結果、評価を得られる。
●素晴らしいお客様と出会えるし、この仕事に就いたからこその出会いもたくさんあるから。拘束時間は長いですが、好きなことを仕事にしているのと、ゲストとのやり取りが楽しいから。
●外資系で、外国人の上司に自分の意見をはっきり言えるし、聞いてもらえる。だから働きやすい。
●街で働いている人間の何倍もの経験値を得られる。
●日本のホスピタリティやサービスは間違いなく世界トップであるそのトップに君臨するホテル業界で学ぶ事は他の国から見たらお金を払ってでも受けたい授業である。ただ終身いる場所ではないと思う。10年を過ぎたあたりから得られる経験値が極端に減る。
●自分が泊まりたいホテルだから。
●新たな事に挑戦できる土壌がある。
●従業員同士の気づかいとチームワークが良い。
●トレーニング環境が整っている。
●自分のビジョンが見えているから。




質問2(2)「勧められないのは、なぜですか」


 続いて、質問1の回答で「絶対勧められない」と回答した人に、その理由を聞きました。主だったものを箇条書きで紹介します。


●長時間(150時間以上)のサービス残業、スタッフを駒としか見ないマネジメント、華やかな世界とブラックな世界のギャップ、数字しか見ない親会社やマネジメント会社etc
●会社の方針があまりにも未来に繋がらない。
●昔、バブル時代をひきずる。
●上層部が自分の事しか考えられない。
●若者が使い捨てにされている。従業員を駒としか見てない。
●労働環境が悪いし、基準を満たしていないから。間違いなくブラックホテルだから。
●上司が独裁者だから。パワハラ、セクハラ、ブラック企業だという自覚がない社員たち。そして、さらに管理職や役員は、それを強要する。
●この職場しか知らない世間知らず、それを指摘しても開き直り。法に触れるようなことでも、知らん分からんで押し通す。
●風通しの悪さ、長期・中期・短期のビジョンのぶれ。
●GMと人事がひどい。エグゼクティブ意外の給料が低すぎる。
●給与は他の業種よりもあきらかに低いと感じる。友人などとの会話で同世代で自分よりも稼いでいる人々と比べてしまい、劣等感を感じてしまう。
●幹部の交代が頻繁、売上不振部署全員のリストラがあった
●昇給、昇格の制度があやふやで、規定がない。
●親会社の鉄道会社から出向で来ている、ホテルの素人が決定権を持っている仕組みが出来てしまっている。
●人の好き嫌いが査定の全てになっているため、真面目に成果を出している人が報われない。
●ゲストよりも会社が大事という考え方がある。


ホテル業界へのメッセージ


 最後に、「ホテル業界の未来に対し、なにか思いがある方は、お知らせください」と投げ掛けました。主だった意見を紹介します。

●せっかく人をもてなすのが好きな集団であるのだから、お互いを尊重しあって働けたらもっとモチベーションが上がるのではないだろうか。
●業界として、地位の向上を図っていかなければ根本的な部分の解決には至らないと考える。特に、給与面の待遇改善や他業種と比べた場合の環境整備、3K(きつい、きたない、くさい)といったイメージの払拭とサービス残業などの労働環境の改善。学校側(特にホテル専門学校)も、ホテルのカテゴリー別の教育にもっと取り組んでいただき、多様なホテルがあることをまず学生に知らせて欲しい。
●このままでは、近い将来、「ひと」の問題で営業停止に追い込まれるホテルが続出すると思われる。業界全体で問題提起し、改善すべき。
●マルチプレイヤー育成が大事です。
●ホテルは家である。というのが私の持論である。家族が健康で幸せに過ごすのが、家である。ホテルもそうあるべき。またそのように努力し続けるべきと考える。
●本気で育てる事を考え、世代交代をするぐらいの意気込みがないと何も変えられない。
●ホテル業界が観光立国に貢献することは、日本が外貨を稼ぐ手段の一つだと思います。
●ホテルは夢のある仕事、働くホテリエが夢をもてる職場にしたい。
●団塊世代やバブル組が居なくならない限り、決して改善されません。
●決して高給取りの職業ではありませんが、人を幸せな気持ちにする最高の職業だと思います。
●顧客満足の向上、そこから上がる利益は従業員満足が向上しないと上がらないということに経営者が気付く仕組みが必要。
●不動産物件として高収益モデルを確立することは否定しないが、労働効率=生産性向上にしか目を向けない経営が支配的である限り、従業員満足度は育まれない。ホテルで働くスタッフの充実感がやがて幾層にも積み重ねられ、企業ロイヤルティを育む。場当たり的な待遇だけでは一過性に終わる。顧客、地域、従業員に愛されるホテルへ真摯に取り組む経営こそ、普遍的な企業価値を創造するものだと切に思う。
●グリーンコアのように、ゲストの満足感を上げることが、スタッフのモチベーションも上げて、売上も上げられるようになれば良いのでしょうか?
●年齢が上がるにつれて、収入が少ないことで業界を去る人も多く、30代という中間層がいないことの原因にもつながると思われる。
●経常利益が少ないのは経営陣の怠慢であるにもかかわらずサービススタッフへその負担を転嫁しすぎている。
●ホテル経営陣は現場を全く理解していない人間が多すぎる。
元ホテルマンとしてスタッフへの愛情を経営陣がもっと持って欲しいものである。
●時代の変化に対応できる人材が求められる。
●悪くてもMARCHクラス、できれば早慶クラスの大学でホテル経営学部ができてこないと優秀な学生はあまり入ってこない。
●この問題の本質について、私見を申し上げます。最も大きな問題は離職にあるのではなく、以下の問題が大きいです。
●就活生の就活方法(自己分析の浅さ・将来設計の甘さ・コミュニケーション力の低さ)
●企業の採用方法(採用コンセプト・採用基準の不明確さ・内定者/新卒者の採用理由の共有の無さ)
●人事部と現場の繋がりの低さ。互いに無関心の為、新卒者がその狭間で誰にも頼れず、的確なアドバイスを得ることなく、廃れていく。
●現場スタッフの不勉強さ(この仕事の魅力・社会的意義や価値に対しての本質的な理解をせず、「バカでも出来る」「トップダウンの指示に従えば良い」「年功序列で昇格できる」という古い考えにまだまだ埋もれている)"
●日本の伝統文化を取り入、その場所でしか体験できない人的・景観的・食的なおもてなしの発信を出来るその場所にホテル業界がなって欲しい。
●「ホテルとはこういうもの」「今までもこうしてやってきた」「以前はこうだった」などと、後ろ向き、旧態依然とした考え方を変えることのできない上司や年長者にホテルを任せていては、顧客満足をあげつつ生産性を高める(利益率を上げる)というミッションは達成できない。利益率を上げることができなければ、いつまでたってもホテリエは低賃金・長時間労働のレッテルを剥がすことができず、優れた人材の確保がますます難しくなっていく。10年後・20年後にホテルの運営を担っていく20代、30代がこの危機感を共有し、真剣にホテル業界にイノベーションを起こしていく気概と、生産性向上のための具体的なアクションをもって団結していかなくてはならないと思う。
●かつての専門職であったわれわれのステータスが、徐々に失われつつあり、誰でも出来るような職種に変わっているのが不安。
●とにかく、人として正しく生きれる職業にしたい。
●「縦の線」をつなげていく人、動き、業界としての運動が大切なのではないかと考える。
●シティホテルに女性のマネージャーやそれ以上の立場の人たちがとても少ないことを心配しています。


 
 最後に、「自信を持って勧められる」と回答した方の所属ホテルを紹介します。
大和リゾート株式会社、セルメスイン日本橋、ミリアルリゾートホテルズ、プレジデントホテル博多、ヒルトン東京ベイ、星野リゾート、ホテルオークラ東京、ホテルエピナール那須、ホテルオークラ、メルキュールホテル横須賀、日本ホテル、リゾナーレ八ヶ岳、ana intercontinental ishigaki resort、株式会社プリンスホテル、東京ドームホテル、東京マリオットホテル、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ、ウェスティンホテル仙台、横浜ベイホテル東急。
 
 アンケート調査にご協力いただいた皆さま、本当にありがとうございました。
 この業界の向上に少しでもつながれば幸いです。
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