【14.06.16】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.84)

売上拡大や高利益率よりも、生涯顧客の「質×数×長さ」というモノサシで


 先週土曜日、6月14日、『社員が夢中になって働き出す 包むマネジメント』が出版されました。前作『巡るサービス』に続く、ホテルグリーンコアのホテルマネジメントを追いかける企業変革ノンフィクションドキュメンタリーです。『巡るサービス』を読まれた「ぶんか社」の編集者さんから、「ぜひ、うちから第二弾を出しませんか?」というお声を掛けていただき、一年がかりで上梓しました。


 今回の「雑学ノート」は、本書の骨子を紹介したいと思います。
 ホテルグリーンコアは、見た目は普通のビジネスホテルです。でも、やっていることはその他大勢のビジネスホテルとはまったく違います。セオリーの逆です。ビジネスホテルの一般的なセオリー(勝ちパターン)は、人的サービスを極力省き、スペック(建物や付帯施設の魅力)で集客し、ランニングコストの優位性で勝負するやり方です。一方のグリーンコアは、スペックではなく、人的サービスに力を入れて顧客をつくり、リピートや口コミによって集客します。

 お客さまには二種類あります。新規客とリピート客の二種類です。グリーンコアは、リピート客(≒顧客)をつくり、大事にする努力を最大限頑張っているのです。
 この努力の方向性(方針)の正当性を裏付ける二つの法則があります。
 一つは、パレートの法則です。有名な「二割のお客さんが八割の売り上げをつくる」という法則です。だから顧客を大事にするのです。
 もう一つは、「一度来たお客さまに再来店してもらうコストは、新規客を一人獲得するコストの5〜6分の1で済む」という法則です。グリーンコアは、顧客を大事にするという方針で、全宿泊者数に占めるリピーター数の割合を6割以上にし、結果、全館、平均90%前後の稼働をキープしています(もちろん、十分な利益も出しながら)。
 数多くの顧客を支え、顧客に支えられているのです。結果、今の売り上げも、未来の売り上げも彼らによって担保されるという安定経営を実現しています。
 簡単にお伝えすると、グリーンコアのビジネスモデルのポイントはこういうことです。ただ、短く伝えるとこうなるけれど実は、こういう「結果」になるまでには、かなりの「時間」と「努力」と「ビジネスの研究」と「すったもんだの繰り返し」があるのです。
 それをストーリーと解説の繰り返しで伝えるのが本書です。


 では、具体的にグリーンコアはどのようにして顧客づくりをしているのでしょうか。実はここにもたぐいまれな戦略ストーリーがあるのです。
 グリーンコアでは、「積極的にお客さまに関わっていく接客」を全社的に行なっています。お客さまのことを積極的に知ろうとし、潜在ニーズを探って応えるということを実践しています。しかも、上からの指示ではなく、スタッフが楽しみながら自らやっているのです。ですので、スタッフの自発性でキモなんです。

 その自発性を育むマネジメントが「見守る(包む)マネジメント」です。温かい眼差しでスタッフの成長や意欲の高揚を見守る経営スタンス。包み込むように、スタッフの心に寄り添いながら…。
「見守るマネジメント」は、放任主義でもなく過干渉でもありません。スタッフのすることに口出しせず、黙って見守るのです。ただしそれは、放任主義とも違います。上司は必要に応じてスタッフに関わっていく。ずっと見守り続け、ここぞというタイミングでストロークを出す。ポジティブな変化は加速させ、ネガティブな変化は流れを変える。そんな心に寄り添うマネジメントによって、スタッフはいつのまにか仕事に夢中になっていくのです。お客さまにホスピタリティを発揮する接客を楽しそうにするようになるのです。本書では、そんな「見守るマネジメント」の事例とノウハウを詳述しています。


 また、もうひとつ、執筆をつづけるなかで発見がありました。

「日本人が進むべき方向は、高利益率や規模の拡大じゃないのかもしれない」

 ということです。

 短期的な売り上げ規模の拡大や高い利益率をつくることよりも、大儲けしなくても多くの顧客と末永くつながり、長期で安定した利益をもたらすビジネススタンスのほうが日本的ではないか。コスト優位性や高利益率というモノサシを捨て、ひたむきに「Worth」を磨き、その輝き度合いというモノサシを持つべきではないだろうかということです。

「Worth」を探求することこそ、価格競争に巻き込まれない戦略、皆が結果としてハッピーになれるビジネススタンス、日本人がとるべきビジネスのあるべき姿であるということを、私は本書を通じて伝えたいのです。独自の「Worth」を見つけたグリーンコアを紹介することで、これを提言したいと考えています。


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