【14.05.18】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.83)

「意図しない」をデザインする


 先日、インドネシアのバリ島に行ってきました。約一年ぶりの再訪です。
 渡航中、つらつらと考えていたことがありました。
「意図すること」と「意図しないこと」についてです。
 今回は、これについて考察を巡らせたいと思います。

 例えば、観光地。最初から観光地として作られた場所って、どこか違和感ありませんか。例えば海外の街や文化を模して造られたテーマパーク。または、浅草にあるような、外国人客目的に新しく作られたレストラン。こう言った場所は、どこか恣意的な印象が邪魔をするのか、本物を真似てつくったものだからか、どこか嘘くさい。
 一方、バリ島の山奥にある「ウブドゥ」という村は、芸術の村として発展しました。別に観光地としてつくられた村ではありません(ただし、今は多分に観客目的の建物や施設が乱立していますが)。バリ人が先祖代々長い間生活を連綿と続けてきた結果、出来上がった村なのです。それが観光客から見たら面白いのです。しかしそれは、「結果、面白いものになった」ということです。だから、「作られてしまったウブドゥ」は、俗っぽくてつまならい(一方で、西洋人から見たバリを表現したホテル、つまり西洋とバリのフュージョンの味は、ものすごく魅力的なのですが、これはまた別の話として)。

 バリのとある村にある祠を囲む壁。この壁に観光客を魅了したいという意図はない。
 何百年か前にこれを作った職人の技術と時間が造り上げた魅力だけが伝わって来る。
 

 個人的な話ですが、私にとって海外旅行の最も大きな魅力はカルチャーショックを受けることです。ショックまではいかなくとも、初めて見るもの、味わうもの、感じるもの、「こんなオモロイ世界がまだあったのか、こんな奇特な文化があったのか?!」という発見と驚きです。だからなのかも知れません、意図的につくられたものには、そうした感覚は持ちづらい。素直に「面白い!」って思えないのです。

 旅行先で食べる食事にも感じます。ローカル料理は、ホテル内レストランや観光客が行く上品なレストランでいただくよりも、現地の人が日常的に食べているものを出す食堂で現地の人に混じっていただく方が数倍美味しいのです。ローカルの料理は現地の人が食べるものと同じものを出せばいいのに、前者のレストランでは観光客向けに味付けや食材を変えて出してしまう。そこには観光客に合うようにという意図があり、結果ニセモノになってしまう。

また、果実が名産になっている地域が、その果実を使って「○○ワイン」といったお酒を生産して売り出したりするのをよく見かけますが、たいていの場合、味が広く認められることも、ヒット商品になることもはありません。
 つまり、意図して作られたものは人の心に響きにくく、意図しないけれど結果としてそうなったことはとても心に響くのです。


 こんなことを考えていると「意図したもの」と「意図を感じないもの」って、周りにたくさんあることに気付きます。

ホスピタリティもそうです。「この人を何が何でも常連客にしてやろう」といった意図が相手に伝わったとたん、受け手は打算を察知してありがたみが薄まります。とにかく目の前の人のためにできることを精一杯やって差し上げようとする気持ちが心に響いて、結果顧客になっていく。

人の成長や変化もそうですよね。「もっと大人になりなさい」なんて言われてもまるで伝わらないけれど、環境を整えてあげて、成長を応援してあげる(「おお、最近すごく良くなったね」とか声を掛けてあげる)と、自分で成長していくし、結果としてどんどん育つ。
人に気付いてほしいことがあるときに、「この本を読みなさい」といって渡しても、気づかせたい人の意図が透けて見えた瞬間、人は「操作されるものか!」と頑固になる。


     東洋と西洋が融合された雰囲気のあるRegent Baliの客室


 バリ島ウブドゥにある伝説のリゾート「アマンダリ」のトイレは、それはそれは素敵な香りが充満しています。チューべローズの花の香りです。きっと、この香りをどこかで嗅ぐたびに、アマンダリを思い出すだろうというくらい美しい香りです。でも、もしこれが芳香剤だったとしたら興ざめです。花は人間を喜ばすために素敵な香りを放っているのではないはずです。そこにはまったく意図はない。花が子孫を残すために出す香りを人間が嗅ぐと、結果として喜びになる。

 魚もそうです。養殖して育てられた魚の味が、天然でとれた魚の味を抜くことはなかなかありません。


  意図した笑顔(つくり笑顔)と、意図しない笑顔(内側から湧き出てくる
  自然な笑顔)も、伝わる人には伝わってしまう。だから、サービスマンは
  仕事を楽しまなければいけないし、幸せでなければならない


 一言で言うと、「わざとらしいものは伝わりにくい」。

 ホテルグリーンコアの金子卓司会長がよく言うことなのですが、意図しても伝わらないのです。意図しないでやっていることが結果として伝わるんです。
そうはいっても、人生やビジネスにおいて、万事「意図しない」で行動することはあり得ません。ウブドゥやチューべローズの花の香りや天然魚のように、(本来の意図とは違う魅力が結果的に伝わる)本物を提供できればいいのですが、そうではない場合、すべてを結果任せにする生き方やビジネスが成功する確率は低くなります。そこには、戦略という発想も必要です。

 では、何をしなければならないか。
「意図しないをデザインする」ことです。

 これはとても難しいのですが、このデザインする力が必要なのだと思います。近視眼的でも、短絡的でもなく、手抜きせず、近道を選ばず、コツコツと、鳥瞰的な視野で全体をデザインしていく力です。

 そうやって長い目でデザインされてできたものは、結果的に「意図していないでできたもの」に限りなく近い成果物なのかもしれません。
 量産されたものではなく、唯一無二のものだからです。松坂健先生が「旅館入門講座」で語られたように、Valueという価値ではなく、「意図しないをデザインする」ことでWorthという価値を創り上げていくことが、何でもかんでもコモディティ化してしまう今の時代に必要な企業努力、個人の努力なのだと思います。













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