【14.05.06】第四回「日本のおもてなしは競争優位になるか 〜シンガポール×ホスピタリティビジネス〜」

第4回 カジノリゾートのゆくえ


場所のホスピタリティデザイン


このゴールデンウィーク、シンガポール旅行者にオススメした場所の一つが、マリーナベイサンズ(以下、MBS)。もちろん、多くの人が屋上のスカイデッキやカジノを目指しますが、ここの魅力はそれだけにあらず。この地に住んでいる我が家も月に2度3度と訪れる場所です。

その理由は下記の通り。

@ゆったり感
 ショッピングエリアの通路幅が3メートル以上あり、ベビーカーで通行しやすい。人が多くても「混んでいる」という印象を与えない。ゆえに、「家族連れ」も「大人グループ」もそれぞれのプライベート感を保ち、混雑によって不快な気分にならない。

A快適さ
 海面に面したデッキテラスが広く、よちよち歩きの子供を放しても安心。カフェが多く、休憩しやすい。建物への入り口が多く、デッキを散歩していて暑くなったらすぐ建物に入れる。

Bあらゆる顧客層に対応
 高級ブティックばかりでなく、各ブランドのリーズナブルなラインのショップやファストファッション、オフィスカジュアル服のお店も並ぶ。1000円程度で楽しめるフードコートもあり、あらゆる顧客層に対応している。

Cアクセスのよさ
 タクシー、電車、バスでアクセスしやすい。

D数多くの魅力的な付加価値
 隣接の博物館や植物園でも遊べる。ほぼ毎週末、音楽やスポーツのイベントが開かれ、屋外でビールや屋台フードを楽しめる。夕方には、海沿いをランナーが行き交い、日が沈むのを待ちながらオフィス街の夜景を楽しむことができる。

と、このように大変魅力的で過ごしやすい場所になっています。シンガポールにはマリーナベイサンズ、セントーサ島の2つのカジノリゾートがありますが、私はシンガポールに来るまで、カジノリゾートにはいいイメージがありませんでした。しかし、これらの様子を見ていると、とてもクリーンで過ごしやすく、こんなリゾートが日本の都市にもあったらいいのにと思います。



商品を売るための施設は一般に「商業施設」と言いますが、MBSは、何も買わなくても、楽しい場所であり、観光客と地元の人の両方が快適に過ごせる場所づくりがされている、ホスピタリティデザインの場所だと感じます。

MBSの設計者、モシェ・サウディ氏のホームページに次のような言葉がありました。
「都市計画では往々にして個人がないがしろにされる。いかに巨大なスケールだとしても、そこに集う人々から人間らしさを奪うべきではないし、生活を豊かにするものでなくてはならない」

「外側」は奇抜なデザインでランドマークとしての役割を果たし、「内側」は人が集まる場としての役割を果たす。この2つを見事に両立させる氏のデザインコンセプトは、現在計画中のチャンギ空港新施設にも反映されることでしょう。

シンガポールから学ぶこと


シンガポールのハブ都市政策に詳しい統括・ハブ機能研究所の木島洋嗣氏によると、観光新興の目的を開業数年で達成し、なおかつカジノのデメリットを最小限に抑えているシンガポールの事例からは学ぶものが多いということです。

カジノ合法化に際してはシンガポールでも、ギャンブル依存症や犯罪増加などが懸念されましたが、現在のところ、観光客以外の国民や永住者への入場料徴収、相談窓口の設置やルール違反への罰則などで対応しているそうです。日本でのIR実施法成立までにはいくつか問題がありますが、このような不安材料への対応方法も参考になるとのことです。

また日本版IR実施法が成立すれば、まずはビジネス、観光の拠点である大都市での開発が計画されるとのこと。なかでも、すでに夢洲という具体的な場所を上げ、誘致に知事自ら手を上げている大阪が有力だと見られているそうです。

東京や大阪のような大都市で成功すれば、第2段階で地方にもできる可能性がありますが、短絡的に「空いている土地があるからリゾート開発」ではかつてのリゾート法の轍を踏むことになってしまいます。本当にこの場所でいいのか、空港や公共交通ターミナルからの動線は十分か、ここを訪れた後、人はどこに向かうのか、リゾート内のホテルか、街中か、他の観光地に行くのか。地元にとって雇用だけで確保だけでなく、そこで働き、そこでお金を使う、地元の経済のポンプとなり、労働と消費が循環しているか等、新しい開発のあり方を目指す必要があります。


2013年シンガポールを訪れた観光客は1550万人。2つのカジノリゾート開業前の2009年比で約50%増。更に観光収入は09年12.6億Sドルに対し、23.5億Sドル。約80%増という驚異的な伸びを記録しています。

同様の結果が得られるかどうかは、政府が観光戦略を国家戦略と位置づけ、複数の省庁が密接に絡み合う観光政策のリーダーシップをとっていけるかにかかっていそうです。ハコモノありきでない、観光地のPRだけでない、国の総合プロデューサーとしての役割が問われています。

また少し先の話ですが、日本のインフラサービスの正確性や接客サービス業の質の高さを生かしたIRオペレーションにも期待していきたいです。





※IR(Integrated Resort)…カジノを含む、ホテル、ショッピングエリア、飲食店、MICE会場、劇場等エンターテイメント施設を併設した統合型リゾート。


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