【14.04.15】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.82)

人が人として人のために働くということ



 4月7日から11日までの5日間、東京YMCA国際ホテル専門学校の新入生オリエンテーション合宿に講師のひとりとして参加しました。
 合宿場所は富士山を目前に仰ぎ見る山中湖畔の東京YMCAのキャンプ場です(91年前に作られた、日本初のキャンプ場です)。ここで新入生80人が二泊三日を過ごします。我々受入スタッフはこれを2クール回し、計160人の新入生を向かい入れます。
 本合宿では何をするのか。それは、ホテルパーソンとして、次の日からどこのホテルに行っても通用する立ち居振る舞いの型を会得してもらいます。
具体的にいうと、全員の前で自己紹介をします。クラスメイトや、応援のために参加している二年生、卒業生、教務、講師など約100人の前にある壇上に上がり、自己紹介をするのです。





「なんだ、自己紹介だけか」と思った方は早計です。
 名前を呼ばれたら、自分の最大限の声で「はいっっ!!!」と返事をし、靴音を立てないで歩き壇上まで行き、型どおりに6つほどのフレーズを、これまた最大限の声で叫びます。最大限の声を出していなければやり直しです。お辞儀も最敬礼です。早すぎやり首が落ちていたりすると、またやり直しです。
 これを新入生全員が行ないます。東京YMCA国際ホテル専門学校には、厳しい「頭髪・服装スタンダード」というものがあり、その通りの頭髪や服装をしていないと合格にはなりません。その場合は、壇上から下ろされ、会場の外に出されます。普段は笑顔の教務スタッフもこの合宿期間中だけは甘い顔を一切見せませんし、ときに怒鳴ります。怖い鬼のお面をかぶっているかのようです。





 この合宿の主目的は「型」を身に付けることですが、実は、この合宿にはそのほかにも数々の効果があるのです。実によくできたプログラムだと思います。
 一つは、社会人になるための訓練である専門学校と、これまでの高校生活は、まったく違うということを伝えることです。つまり、気持ちを切り替えること。山中湖にやって来たときの新入生と、合宿を終えた新入生では、明らかに態度やマインドが違います。我々講師や二年生の先輩に、自分から挨拶をし、お辞儀をします。たった三日間でものすごく成長します。





 二つ目は、達成感でしょうか。新入生は自分のせい一杯を出し切ります。そして、合格をもらいます。その証拠として最後にこれから二年間身に付ける名札を授与されます。その瞬間は、大きな感動を感じている表情をします。「やればできる」「自分は、やり切った」。そんな達成感を味わうことで肯定的自己概念を得るのです。



 三つめは、実は新入生のためではないのです。二年生のためです。昨年同じような辛い合宿を乗り切った二年生10人がサポーターとして参加します。教務スタッフが厳しく指導する傍らで一年生をサポートします。外に出されて泣きそうになっている一年生のケアをし、声の出し方、お辞儀の仕方などを一緒になって練習します。二年生は、献身的に全力で一年生をサポートします。一年前の自分の心境を思い出し、一年生にどのようなサポートをすれば自分は最大限役立つことができるのか、どのような声を掛ければ一年生は嬉しいのかを一生懸命考えるのです。




 四つ目は、教務スタッフや講師という学校運営を一緒になってやっていく仲間のチームビルディングです。校長が「どんな思いで学校を運営し、どんな人材育成をしたいのか」、79年もの歴史のある同校が「どんな思いでホテルパーソンを育てているのか」を共有し、みなで支え合って一年生の「ホテルスタッフに向けての第一歩」を応援する。
 一言で言うと、ここに集まるすべての人は、「まわりのために自分は何ができるのか」をひたすら考えて行動しているのです。





 お分かりでしょうか。
 この「まわりのために自分は何ができるのか」を考えることこそ、ホスピタリティなのです。このホスピタリティの空気が、合宿だけではなく学校全体に蔓延しているのが東京YMCA国際ホテル専門学校のクリティカルコア(真似できない唯一無二のWorth)です。この学校にいると自然と空気感染し、ホスピタリティがなんたるかを無意識に体感し、自分のものにしていくのです。



           160人の新入生をサポートした新二年生


 人は、完璧ではありません。むしろ、ミスをするのが当然です。そのミスを誰かがカバーする。東京YMCA国際ホテル専門学校のスタッフも、当然ミスをします。私なんてミスだらけだし、穴だらけです。でも、この学校には大きなミスは発生しません。なぜなら、だれかのミスは、周りが寄ってたかってフォローするからです。ミスを責めるのではなく、ミスを救い合うのです。
 実は、そんな組織が、一番強い。前回のブログでも書きましたが、個人個人のタスクの間にある溝や穴を埋めあうことで結束が強まるのです。どんなに優れた人材が集まっている組織といえども、この溝や穴をだれも埋めようとしない組織は弱体組織なのです。
東京YMCA国際ホテル専門学校の卒業生が、業界で高く評価され、素晴らしいホテルパーソンとして業界で活躍している根源は、この合宿にあるのです。
 

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