【14.03.04】新連載 第二回「日本のおもてなしは競争優位になるか 〜シンガポール×ホスピタリティビジネス〜」

ビシっと!!ジャパンキャンペーン 〜旅行博で日本の売り方を考える

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1、成約総額1億ドル(約63億6500円)の裏側

NATAS (National Associations of Travel Agency Singapore)が年2回開催している国際的な旅行博がSingapore EXPO(チャンギ空港の近く)で開催されました。

各国・地域の観光協会、旅行会社、ホテル、クルーズ運行会社など約160団体が出展し、各地の魅力をアピールしました。来場者は、各地の紹介を見て回り、気に入った場所があれば、旅行会社のカウンターでツアーを申し込むことができ、沢山のパンフレットを見比べたり、値引き交渉したりしていました。

旅行会社カウンターの後ろには、9つもの銀行のブースが設けられ、現金を引き出すこともできます。旅行博会場で、「旅行地選定→ツアー選び→現金引き出し→旅行代金支払い」までできてしまう仕組みです。また会場で旅行を申し込むと、スーツケース等が当たる抽選会も。なんて抜かりないのでしょう。

          *成約総額1億シンガポールドル、当時のレート(2012NATAS)

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2、ちょっと惜しい日本ブース

日本ももちろん出展しています。政府観光局を中心に、各地観光協会等12、運輸2、旅行会社2、ホテル1などから成り、デスティネーションとしては一番大きなブースだったかと思います。

ただ、日本ブース含め会場全体的に、来場者はそこまで多くなかったように思います。初めて海外旅行に行く人が色々見るには旅行博は向いています。しかし、インターネットで情報を得て旅行を予約できる昨今、旅行博にわざわざ来場しようとする人はそれほど多くないのかもしれません。

2013年は約19万人のシンガポール人が日本を訪れ、その約8割がツアーではなく個人旅行であり、1回の旅行で7日以上滞在する人が約半分、訪日回数も2回以上という人が70%以上です。リピート訪問客には、ゴールデンルートや北海道、九州に次ぐ、次なる目的地として、四国、岐阜、長野などが注目されているそうです。さて、そんな日本のブースですが、もったいない…と思うことが沢山ありました。

@「なんか、日本ブース盛り上がってるね」が聞きたくて

そう言われるには何が足りなかったのかと考えてみると、浮かんでくるのがB級グルメ大会の会場です。開場前からお客さんが並び、作る方も食べる方も必死。グランプリを獲りたい!という競争意欲と、おいしいもの食べたい!という、お客さんで、いい場の空気ができる。お皿が足りなくなったら、完売したとなりの店が分けてくれた。そういうホットな雰囲気が、旅行博の日本ブースにあればもっとよかったのにと思います。

B級グルメ会場に学ぶとすると、政府観光局は、ビシっと「訪日旅行2000万ドル成約を目指します!!がんばりましょう!!」と目標を掲げる。各観光協会の人は「ははは。まー目標はよう分からんけど、自分の住んでるところに旅行に来てもらえるのはうれしいなー。きれいな山も川も見せたいです」という個人的な情熱に火をつける。となり同士はライバルだけど、わが町に来てほしいという気持ちは同じ。この連帯感。この両方が融合すると、ものすごくあたたかい雰囲気になるはず。場づくり、というのでしょうか、なんか日本のブース盛り上がってるね、というお祭り的雰囲気をもっと作っていきたいものです。

A「行きたいな」を「予約しちゃった!」までガイドする戦略

「MATSUMOTO」「JR East」「HOKURIKU」「Hello, JAPAN」「ASO」「City of Nigata」「HATO bus」「○○RESORT」「TOHOKU」
これらの看板が日本ブースに掲げられており、来場者が立ち止まっていました。「ねえ、桜見たいんだけど、どこに行けばいいの?」という質問に、私も戸惑ってしまいました。参加団体を順番に並べたら、こうなるのかもしれませんが、来場者には、ちょっと不親切だったかもしれません。

例えば、日本地図をブース入り口に設置して、参加している観光地がどこにあるのか掲示したり、参加団体が観光協会なのか、運輸業なのか、宿泊業なのかマークをつけて区別し、つながりが分かるような相関図を作ったり、来場者目線でもう少し工夫できる点があったかもしれません。

博覧会の目的は多くの人に向けて情報を発信するというものですが、それだけでなく、シンガポールの旅博では会場内で旅行予約まで可能です。人はテレビや雑誌でこんな旅先があると知ってから、実際に旅行を決意するには、もう一歩、気持ちの高まりが必要です。日本ブースにおいて、情報発信というサービスを超えて、相手の気持ちを一段押し上げるような顧客目線のホスピタリティが発揮できればと思います。


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B日本の見せ方〜情報をしぼる勇気〜

「九州って何が魅力なの?」「食べ物、自然、温泉、人が優しいです」「でも、それって北海道や北陸でも一緒だよね」「え、いや、あの、白身魚、地鶏、黒豚、活火山もあります…」「北海道でも、いくら、うに、夜景、牧場スイーツ、スノーアクティビティとかあるじゃない?」

日本はどこに行っても魅力が多いので、ついあれもこれもアピールしようと情報が多くなってしまいます。その結果、項目の列挙に留まり、お客さんから見ると、どこも良さそうに見えて違いがよく分からない。という状態に。レシピ本で言うと、材料一覧はあるけど、どう調理したら、おいしいのかまでは書いてないといった感じです。嬉しい悩みですが、豊かな観光資源にどうストーリーをのせてアピールするのかが今後の課題に見えました。

その点、「見せ方が上手いな」と感じたのは、おとなり、台湾ブース。食べ物、フルーツ、温泉、お茶、穏やかな自然など、日本と観光資源が似ているライバルです。しかしブースはすっきり。選りすぐった大きな写真がどーんと出ています。北側の壁は、小籠包。南面には温泉と自然だけ。目に入る情報量は日本の20分の1くらい。でもストーリーが浮かび、想像力をかき立てられました。

もちろん、日本より面積が小さく、統一したイメージを作りやすいのでしょうが、台湾の「売り」が何なのか、とても分かりやすかったです。日本ブースでは、各地の魅力をアピールするばかりで、日本地図すら会場にありませんでした。日本全体を俯瞰してコンセプトを決め、見せ方にこだわる手法はぜひ真似したいものです。

日本各地それぞれはとても魅力的ですが、チーム日本として強いコンセプトが感じられない。サッカーで言うと、「個人技は光っているが、試合には決定力不足で負けた」そんな状態です。目指すは、「個人が光っていて、チームワークもいい。その結果、チームは勝利し、選手も海外チームから招聘された」そんな個と全の力の融合です。旅行博においては、場を作り、戦略を練り、オールジャパンの強さを持って、ビシっと!ジャパンキャンペーンしていきたいものです。

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