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【14.02.15】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.80)
「せねば」と「したい」の間にある大きな溝
シェラトングランデ・トーキョーベイ・ホテル。学生は一人一人は粒ぞろい。
大人や初めて出会う人にも意思を伝える訓練も就活の目的の一つ
先週水曜日(2月12日)、「大学生のための人気ホテル見学会&会社説明会ツアー」という初の企画を試みました。45人の大学生が全国から集まり3つのホテルを巡ったのですが、そこでちょっと驚いたことがありました。
学生がまるで意思表示しないのです。人事担当者や内定者に質問をしない。表情を窺っても何を考えているのか、何に感化されているのか、何に疑問を抱いているのかまるで読めないのです。目立つことや、それによって傷つくことを極度に恐れているのか、それとも感情表現することがかっこ悪いと思っているのか、彼らからは見えてこないのです。
これはまずいです。就職活動や社会では、やりたい仕事をするためにアピールしていかなければならないのに、それをしないのはまずい。彼らを見ていると、まるで「私という逸材を発見して、待ってるから」と言っているかのようです。受け身、待ちのスタンス。こんなスタンスのままでは、やりたい仕事を自分から勝ち取っていくのではなく、与えられた仕事をただこなすだけの人生になります。つまり、自分がやりたいことができないで終わる人生になる。それに、気づかせたい。
野尻湖ホテル エルボスコの坂下雅行総支配人
その翌日、宿屋塾がありました。アゴーラ・ホスピタリティーズが運営する野尻湖ホテル エルボスコの坂下雅行総支配人による「どうしたら生え抜きホテリエが総支配人になれるのか 〜プロフェッショナルホテルマネジャーのキャリアデザイン」という講演です。坂下さんは高校を卒業してホテル日航東京に就職、コンラッド東京を経て同社に入社し、36歳の若さでエルボスコの総支配人に就任しました。
ご自身のキャリアパスを話される中で耳を疑うエピソードがありました。34歳のときに伊豆の旅館からエルボスコのファイナンシャルコントローラー(経理部長)に異動になった話です。そのとき、なんとPL(損益計算書)すら読めなかったと言います。ご本人曰く「ホテルマネジメントの教科書は売っていないけれど経理の教科書は本屋さんでいくらでも手に入りますので、それで勉強しました。その結果、財務諸表も眺めるだけで理解ができるようになり、『アメニティの費用がちょっと多いのはなぜかな?』という疑問も自然に抱けるようになりました」とのこと。
私は、PLも分からないのに経理責任者を任せるという人事異動が信じられませんでした。講演後、アゴーラ・ホスピタリティーズの浅生亜也社長にお聞きしたところ、こんなエピソードを教えてくれました。
「坂ちゃんが入社して伊豆の旅館で副総支配人をしてもらっていたころ、二人でラーメンを食べたことがあったんです。そのとき、『坂ちゃんは、これからなにをしていきたい? どうなりたい?』と聞いたんです。すると彼は『総支配人になりたい』ってはっきり言ったんですね。その言葉に強い覚悟を感じたんですね。一つのホテルを統括するリーダーならまずお金の流れを把握することは不可欠な能力ですからFCをやってもらいました」
覚悟を決めて意思表示をする人なら知識や技術は後からついてくる。浅生社長はそれを信じたんですね。同社には「メンバーには大きい靴を履かせる」という哲学があります。ちょっとキャパオーバーでも意志や覚悟のある人にはどんどん仕事を任せて、仕事によって成長を促す。逆に、「これがやりたい」「こうなりたい」という意志や意見のない人は同社では難しいといいます。
人から言われたから、仕事だからということで「せねば(I have to)」という仕事と、自分の内側から湧き上る「したい(I want to)」という気持ちでやる仕事には格段の差が生じます。アウトプットの質が違うから仕事を託す人も信頼して託せるし、なにより、仕事を義務としてやる人と、やりたいからやる人の人生には、その質がまるで違うと思うのです。
とにかく何事も「こうしたい」という意志や思いが源泉です。そしてそれをきちんと語る。語って、周囲の人を巻き込んで実現させていくことです。熱い想いを持って熱くアピールする人に、人はチャンスを与えようとするし、人も集うのだと思います。