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【13.12.23】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.77)
心と心の触れ合いが付加価値として見直される時代
先週末の土日、静岡県浜松市の柳原新聞店を訪問しました。
柳原新聞店は創業1960年、社員110人、10の営業所を持つ新聞配達店。単に新聞を届ける新聞配達に留まらず、何千とある顧客に個別対応して新聞を配達したり、地域の方とのつながりを深めるためのイベントを定期的に開催したりして、顧客と心と心でつながることで長期的なお付き合い、長期安定経営を実現しています。自社のビジネススタンスを「生活情報サービス業」として、「心でとどける。心をむすぶ」を企業理念、コンセプトにしています。現在では、カルチャースクールや地元野菜の宅配、オリジナル情報誌の発行なども行っています。顧客満足を重視すること、社員を大事にする経営の手本として、多くのマスコミが取り上げている、ちょっとした有名企業です。
その柳原新聞店がこの時期に毎年行なっているクリスマスの恒例行事をホテルグリーンコアの社員の方が見学されるという話を聞き、私も同行させてもらうことにしたのです。現在、同ホテルの取り組みを綴る書籍の第二弾を執筆中ですが、キーパーソン二人に密着取材でき、彼らの目に柳原新聞店がどう映り、どのように参考にするのかを間近で見れることは私にとってとても有意義であろうと判断しました。
現地に到着すると、見学だけではなく、社員の方々と一緒に仕事をさせてもらいました。サンタクロースの格好でお菓子や、両親から託されたプレゼントを子供たちに届け、クリスマスイベントの運営をお手伝いしました。
私もサンタクロースになってプレゼントを子供たちに渡したり、イベントでチョコバナナを販売したりしながら、柳原新聞店の社員の方々とじっくり話をさせていただきましたが、目の当たりにした同店の取り組みのすごさは事前情報以上で、心を打たれることばかりでした。
配達員の方(ほぼ全員正社員です)は、一日300軒を回るそうですが、約半数の顧客と顔見知りです。毎朝会う一人暮らしの年配者が見えないと、気になって家の中を確認し、倒れているのを発見し、命を救ったことが何度もあるそうです。ノブに刺さったままの鍵をお届けしたことや、自殺しそうな人を思い留めさせたこと、足の不自由な方の代わりに夕飯の材料を買ってきてあげたこと、切れた電球を取り換えてあげたこと、台風でぐちゃぐちゃになった庭を三人がかりで元通りにしてあげたことなどなど、同店の配達員が業務以外のことで地域の方に貢献した話は数えきれません。
配り方も個別(戸別)対応しています。あるお宅は新聞をドアのポストから落とします。あるお宅は、斜めに差して風が入り込まないようにします。あるお宅はチラシを抜きます。あるお客はエリア外のチラシも欲しいというのでそれも入れて差し上げます。あるお宅は、雨の日でもビニール袋不要です。こうした要望にすべてお答えしているのです。
お客さまからも、「いつもオートバイを遠くに停めて、そこからわざわざ歩いて届けてくれる気遣いが嬉しいです」、「毎朝5時過ぎ、ドアのポストから新聞を入れていただきますが、その丁寧な差し込み方に愛情を感じます。ありがとう」といった声が届きます。
もちろん、柳原新聞店も購読客獲得のための営業はしています。でも、新聞営業にありがちな「モノの提供」は一切していません。洗剤やプロ野球観戦チケットといったモノを渡さないポリシーを貫いています。その代り、個別対応のサービス、心と心で長く繋がるという安心感という付加価値を提供しているのです。
柳原新聞店が届けているのは「新聞」ではないのです。心と心の触れ合いという価値、都市化が進み、商店街が消え、地域と人たちとの接点を持ちにくくなった時代において、誰かが誰かを見守っているという安心感をお届けしている。少し大げさに言えば、バイクに乗せて新聞を届けているのではなく、新聞に乗せて心を届けているのです。
スターバックスコーヒーのコンセプト(本質的な顧客価値)がコーヒー販売ではなく、「サードプレイス(第三の場所)」であることは有名ですが、柳原新聞店にも同じことが言えます。柳原新聞店のコンセプト(本質的な顧客価値)は、「心をむすぶ」なのです。浜松における情報のハブになって地域の方々の心と心をむすんでいる。これが事業の本質です。
柳原一貴社長に、「新聞が世の中から消えても、きっと御社は繁栄するでしょうね」と質問したら、その通りですという答えでした。
サービス業において、効率化という努力は間違いなく大事な努力です。でも、それによって、サービス業の本質的な顧客価値である「心と心の触れ合い」を忘れてしまうのは、本末転倒と言えるのではないでしょうか。
これからは、効率化によるコスト優位性で勝負する企業よりも、柳原新聞店やホテルグリーンコアのような一見非合理な「心でつながる」付加価値を大切にする企業が尊ばれる時代になると思います。
●柳原新聞店
http://www.mai-ca.net/about/index.php