【13.12.09】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.76)

誰もが“ほっ”とする、スマイル溢れるホテルを創りたい。


              スピタリティパートナーズグループ 田中章生代表

 10月1日の雑学ノート(Vol.71)に続き、ホテル業界人支援活動を通して私が出会ったホテリエで、ぜひとも、多くのホテル業界人に存在を知ってほしい、記憶に残したいと思うホテリエを都度都度、この場で紹介していきたいと思います。
 今回は、ホスピタリティパートナーズグループの田中章生代表です。
 田中さんは、実にとらえどころのない経営者です。大変失礼ながら、見た目はとても“ふつう”です(男前ですが、経営者っぽくないという意味で)。きっと、ホテルの現場で田中さんが腕まくりをしてスタッフに交じって宴会場のセッティングなどをしていたら、一ホテルスタッフと見間違えるに違いないでしょう。
 そして、饒舌ではありませんが、情熱家です。
 人の感情の機微を見分ける繊細な神経をお持ちですが、度胸のある強靭な心も持っています。
 ところが、このホテル経営者は人並み外れた経営のセンスとスキルと意志を持っています。近い将来、日本のホテル業界の優位性を世界に示すに違いない大物だと私は確信しています。
「ホスピタリティという分野で、海外展開します」
「将来は10万人の雇用を生み出したい」
 話の途中で、急に突拍子もない大風呂敷を広げます。突拍子もない発言に聞こえますが、起業してからたった8年でホテルやスキー場を55施設も展開するほどのビジネスをやってしまった田中さんの実績を考えると、発言には説得力があるのです。

 以下、NHKの『ザ・プロフェッショナル』風に紹介します。


    スマイルホテル東京日本橋 中島智花子さん。宿屋大学の常連さんです。




不動産投資ファンドとの出合い

 田中さんは、早稲田大学入学とともに岡山から上京した。時給がいいという理由で「山の上ホテル」で配ぜんのアルバイトをした。冬はスキー場のロッジに籠って住み込みのアルバイトをした。一緒に働くスタッフの温かさ、じかにお客さまの反応が返って来るサービス業を、素直に面白いと感じた。
 就職は、大京という不動産企業だった。当時、一世を風靡したライオンズマンションを展開する大手。ここで、宅地建物取引主任者や不動産鑑定士といった不動産関連資格を取得した。また、銀行にも出向した。社内でも特命舞台のような部署に配属になって、地主に土地の有効活用の提案などをした。つまり、エリートコースに乗っていた。
 ところが、田中さんは7年で大京を退職してしまう。障がいを持つ方を対象とするカヌー教室を始めようとしたのだ。途端、収入が途絶え、生活にも苦労した。山にこもり、銀杏を拾って売ってお金に換えたりした。
そんな生活をしていたある日、知り合いの不動産鑑定士から声がかかった。「米国の不動産ファンドが不良債権ビジネスをするから手伝え」という誘いだった。1998年ごろのことだった。
「不動産鑑定士の資格を持つプー太郎なんて、私しかいなかったからでしょうね」と田中さんは笑う。
 面接に合格し、田中さんはできたばかりのこの小さな不動産会社に入社した。銀行に山積みになっている不良債権の不動産を買い取って再生したり、転売したりするビジネスだった。その会社が後にホテルビジネスを展開するローンスター・ファンドだった。
 2002年ごろ、田中さんは、当時の上司に、ホテル投資を進言した。まだまだファンド各社がホテルに注目していなかったころである。田中さんは、スーパーホテルの山本梁介氏に教えを乞うたりして、ホテル業界の研究を始めた。そして、宿泊特化型ホテル、いわゆるビジネスホテルは比較的利益率が高く、収益のブレも少ないということが分かってきた。
 いくつかのホテルを取得し、運営していくに従い、田中さんはホテルビジネスのコツを吸収していった。そんなとき、地産グループが会社更生法を申請し、事実上倒産した。13社が入札したものの、ローンスターが獲得。そして、グループの26ホテルを手中に入れ、会社は一気に大きくなった。その後、ホテル子会社としてソラーレホテルズアンドリゾーツを立ち上げた。田中さんはここで、手腕をふるい、見事この26ホテルの再生を果たした。
 チサンホテル以外にも、田中さんは、いくつかのシティホテルを取得しては再生を進めた。ところが、田中さんは、このころからファンドのビジネスに疑問を抱くようになる。不動産投資ファンドのビジネスは、短期転売が命題である。買った不動産を売却してなるべく高額の利ザヤを得るのがファンドのビジネスであり、それがお金を預けてくれた投資家に対する使命である。よって、ホテルを長期的な視野で改善していこうとか、社会のためにこのホテルの存在価値を高めようという方向にはなかなか向かない。スタッフのモチベーションを高めたり、長期的な視野で設備投資を続けていったりという、自分が思い描くホテル再生ができない。田中さんは、そこにジレンマを感じるようになっていった。そして、2005年6月、田中さんは自身が立ち上げたといっても過言ではないソラーレホテルズを退職した。


     同社がデザイン・設計を手掛けたブランド「プレミアイン」
  


サービス経験と不動産ビジネスの融合

 その一か月後、会社を立ち上げた。脱サラというリスクを取ってまで起業したのは、自分が思い描くホテルの再生がやりたいという思いが根幹にあったからだった。そして、ゆくゆくはホテルだけではなく、ホスピタリティの領域ならばなんでもやろうという思いがあって、ホスピタリティパートナーズ(以下、HP)という社名を付けた。
 東神田の日の当たらない小さな一室に事務所を構え、最初は、知り合いから回ってきたマーケット調査の仕事をして投資家に提出したり、ホテル運営のコンサルの依頼を受注したりした。そうやって社内にノウハウや人材が徐々に貯まっていった。
 長野県松本市で一軒のホテルが破産した情報が入った。そのホテルの所有会社は上場企業だったが、コンペを経て、幸運にも格安の賃料でHPがホテル運営をすることができた。これが、スマイルホテルの一号店になった。起業してから半年後のことだった。
 次に、九州の博多にホテルの売却物件が出てきた。田中さんはここもやってみたかった。しかし、億を超える資金はない。代わりに資金を出してくれる企業を探し、その企業に買い取ってもらい、HPが運営を担当するというスキーム作りに成功した。その後、銀行から融資を受けて、そのホテルをHPが買い取った。長野、函館、金沢といった具合に、次々にホテルを取得していった。
「ホスピタリティという軸で、いろんなビジネスを展開したい」という田中さんの思いはすでに実現している。ビジネスホテルやシティホテル、リゾートホテルだけではなく、スキーリゾートも旅館も外食も運営している。割合的にビジネスホテルの数が多いのは、安全で安定しており、有事のときにも強いビジネスだからである。
 大学時代に楽しさを知ったサービスの仕事と、社会人になって就いた不動産業がリンクして、いまのビジネスになっている。

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 同社が手掛ける「舞子スキー場」。再生事業を通じて「雪国活性化」も目指している




ホテルの本当の価値とは

 とかく、不動産業としてホテル運営をするホテル企業のホテルは、ドライで冷たい印象を与えてしまうものだが、田中社長率いるHPには、それが一切感じられない。なぜならそれは、「ホスピタリティ」というぶれない軸が同社の根幹にあるからだ。
 東日本巨大地震のとき、「スマイルホテル仙台国分町店」に宿泊したあるお客さまを筆者は取材したことがある。普段は5つ星ホテルにしか泊まらないその方はこんなことを私に語ってくれた。
「たまたま泊まることになったスマイルホテルで、私はホテルの本当の価値を知りました。スマイルホテルのスタッフは、自分の家族が行方不明というときにもかかわらず、私たち宿泊客に対して最善を尽くしてくれました。ホテルの本当の価値は、困っている人がいたら自分のことよりも、その人のために親身になって行動するという“ホスピタリティ”なのですね」
 単なる金儲けをしたければ、不動産ファンドに就職すればいい。でも、「正直に、真面目に仕事に取り組んで、社会のお役に立つことをして、チーム全員で幸せになっていきたい」という思いがある人は、ぜひとも田中章生社長というフラッグの下に集まるといい。
 私は心からそう思う。



現在は全国26ヵ所で展開しているスマイルホテルも、最初はこの「スマイルホテル松本」からスタートした。


追伸 本ページは、求人情報ページではありませんが、もし田中社長の下で
   働きたいと思う人がいたら、下記をご確認ください。
   http://www.hospitality-operations.co.jp/cms/recruit/

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