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【13.11.15】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.74)
お客様を欺かないと、ビジネスは成立しないのではない。お客様を欺くから、ビジネスが成立しなくなるのだ。
今回は、今までで最も長い文章量になります。
ブログの域を超えた、調査報告です。
現在、世間を騒がせている「表示と異なる食品使用問題」に関し、宿屋大学のメルマガを利用して、ホテル業界人を対象にアンケートを試みました。11月11日(月)〜13日(水)という短い期間でしたが、業界の方々どのようにお感じになっているのか、本音はどんなことなのかを探るために、無記名で回答をお願いしたところ、57名の方から回答をいただきましたので、そのレポートをしたいと思います。
回答者のプロフィールは、下記の通りです。
●性別 男性51人、女性6人
●年代 20代4人、30代13人、40代26人、50代12人、60代2人、70以上2人
●職種 ホテル40人、旅館2人、外食1人、食費メーカー1人、そのほか9人
回答をくださったみなさま、ありがとうございました。
この場を借りて御礼申し上げます。
まずは、質問1です。
質問1は「あなたが勤めている企業でも、同様の問題がありますか」です。
最も多かったのが、「存在しない」で、25人(42%)でした。
次は、「存在しており、公表されてる」で、15人(25%)でした。
「存在するが、公表されていない」も、10人(17%)いらっしゃいました。まだ隠ぺいされたままのホテルもあるということです。
続いの質問2は、「あなたは、今回の問題は、『誤表示』なのか、それとも確信犯的な 『偽装』なのかどちらだと思いますか」です。
回答は、「ほとんどが偽装」が25人(40%)が最も多く、次に「誤表示と偽装が半々」20人(32%)でした。この二つを合わせると3人に2人までは「確信犯的偽装」は存在すると認識しています。
このアンケートを試みた今週初め(11月11日)には、報道もほとんどが「表示と異なる食品使用問題」ではなく、「食品偽装問題」としていましたので、いささか愚問ではないかと思いながらの質問でしたが、「ほとんどが誤表示 」と回答された方も11人(18%)いらっしゃるということは、知識不足によって発生してしまった企業も確かにあるようです。
続く、質問3では「確信犯的な偽装である」と答えた方にその原因を、質問4では、「誤表示であろう」と答えた方にその原因をそれぞれ聞いています。
まずは、質問3「『確信犯的な偽装がほとんど』と答えられた方、その原因は下記のどれだと思いますか?」の回答結果です。「複数回答可」の設問です。
「お客さまを欺いているという意識の欠落」がトップで31人、続いて「暗黙の了解云々の話ではなく、誠実さの欠落」が28人でした。つまり、モラルの問題としている人が最も多い結果となりました。
次に多いのが、「過度な利益至上主義」(27人)。顧客満足以上に利益重視の体質になってきた証左かもしれません。
続く、質問4では誤表示と考える人に「なぜそのようなミスが起こるのか」を聞いています。
ご覧のように、「プロ意識の欠落」が最も多く(31人)、次いで「知識やトレーニング不足」(22人)でした。
質問5では、「本質的な原因は何だと思いますか」と「自由記述式」で、ご意見を聞いてみました。
皆様真剣に回答していただきました。すべてを紹介することはできないので、ご意見の傾向でまとめてみました。
最も多く上がった理由は、「お客様軽視、モラルの低下」で、16人が指摘した。
続いて「認識の甘さ、プロ意識の欠落」が14人、「過当競争による利益至上主義」が12人、「コミュニケーション不足」が7人、「消費者の知識不足」が5人、「法的拘束力不足、ガイドラインの不徹底」が5人でした。
以下、個人的に紹介したいと思った意見を箇条書きで紹介します。
●産地を書けば価値が増すだろうという安易な風潮に流され、創意工夫をしない現場の勉強不足
●正しい努力をせず、保身のため数値を作るのに頭を使わなくて済む「コスト削減」に走った結果、安い食材を使って体面だけ高級に取り繕うことで済ます習慣、またそれでよしとする経営陣のことなかれ主義に至ったのではないか。
●行きすぎた合理化により、ホテルそのものの存在価値を見失ない、善悪を考える思考も欠落してきたから。
●現場・企画・調理の風通しの悪さと、何より、それらの監督するべき立場である総責任者(総支配人)の力量不足が最大の原因だと感じている。
●本物の価値を日本人が認めて購入しないから。
●第一線の人間が口を出せない環境。
●「そもそもメニューはなんのためにあるのか?」をきちんと捉えて、「そのためになにをしなければならないのか?」ということを真摯に捉えていなかったことが根底の考え方にあると思います。 お客様は注文するときに、メニューしか頼るものがないのです。すなわち、お店との契約書のようなものなのです。契約書に書かれていることには相違があってはいけないのです。 真摯に、万一メニューと異なる場合は、補足説明も必要なのです。 契約書に謳っていない場合は、違反になるのです。 そんな本質的な捉えが欠如しているから、メニューの文言が慣習や安易な誤認で表現されてしまうのです。
●プロの購買担当者不在。 調理部、料理長、料飲部長、GM、経理部長、納入業者などとの調整業務、そして商品選定から、販売価格、レシピ、メニュー、コスト、分析までを行えるプロがいなくなった。誤表示に対しても料理長や料飲部長に対し、強く発言・抗議できるのが、商品を熟知している購買担当者。 納入業者のせいにするのは、購買担当者の業務怠慢!
●印刷されたメニューは、意外と高額なもの。作り直しをしたくなかったのが、本心だと思われる。
●経営側から現場の料飲部門への数字的プレッシャー
●安易に商品内容を変えてもかまわないという意識。調理部門の意識=美味しいならかまわない。味が変わらないなら、コストダウンのための工夫は許されるという認識。 もっといえば、そう名付けなければお客様が来ないという自信のなさ。
●グルメブームにより、消費者が原産地への興味が増大、それに呼応する形での行き過ぎた差別化戦略
●調達部門に食品材料知識の豊富な人間が少ない。未熟な人を配置するという人材の配置ミス。フードコントローラが居ないホテルがほとんど。
●旧来の調理の世界による弊害。GMが調理場に入れないほどの閉鎖社会を形成している。そのため不正が表に出にくい。棚卸さえGMが立ち会えない調理場が現存する。
ここまでは、ホテル業界人が業界の問題として挙げていただいた原因ですが、いろんな方のご意見を聞くうちに、私は「これは、ホテル業界だけの問題ではなく、日本人全体の問題ではないか」と思うようになりました。
産地を偽ってでも利益を上げることを正当化するつもりはありませんが、日本人全体が「○○産」といったブランドやお墨付きがないとものを信じられないという自信のなさ、自分の審美眼のなさが根本的な問題なのではないでしょうか。
もう一つは、そういった消費者意識をあおったマスコミにも責任はあると思います。「本場○○」とか、「○○とれたて」とか、そういうものばかりを取材するから、ホテルやレストランもそういう食材を取り上げてしまうし、お客さんも行ってしまう。
努力の方向は、メニュー表示の工夫や、料理人の腕の上達に行くべきなのに、「どうしたらばれないか」といった方向性に向かってしまったのは、提供サイドのモラル、消費者、マスコミ、さらには、法整備の不徹底、チェック機能の不徹底が原因かと思います。
質問6では、「どうすれば、なくなると思いますか」と聞きました。
最も多く上がった意見は、10人が挙げた「法律やガイドラインの徹底とチェック機能、罰則規定の強化」でした。続いて、「教育」が8人、「組織の抜本的な見直しによるコミュニケーション力アップ」が5人、「メニュー表示や料理人のスキルアップ」、「プロ意識の醸成」、「総支配人の力量up」がそれぞれ3人でした。そのほか、「フード・コントローラーの設定」「なくならない」といった意見もありました。
下記に紹介したいご意見を箇条書きで記します。
●品質と対価、サービスと対価をきちんと理解している客のみを相手にする。 ファミレス並の金額で高級ホテル並のクオリティやベネフィットを求めているような質の悪い客は排除する。 料飲部門は本気でお客様の事を考えて、企画やメニュー、料理を作る。
●素材の産地ブランド表示をなくす。美味しさで勝負できる様に調理の腕を上げる。
●食品取り扱い責任者への定期的な講習会 罰則化(消費者庁への報告・公表・罰金など) 調理と料飲の一体運営化、サービス技術だけでなく社会人としての基礎的素養の醸成、食材で売るのではなく料理の腕で売る手法。
●二極化の価格をもっと幅広くすること。 生産者・卸・販売も自信をもってお客様に接しる事。 私も持っていますが、表示検定の資格を取ってコンプライアンスに違反しない体制を整えるしかないと思います。
●価値あるものは価値ある値段で、そうでないものはそれなりの値段で販売すること。
●行政による食品表示の改善。とにかく分かりづらい!
●1)組織機構の権限を協力に明確にした職務分掌を作成し、部門長が同意の署名を行う。 2)この職務分掌内容に、明文化した法的拘束力を明記することで、内部告発を容易にする事が出来る。 3)GMに昇格試験を実施。一定の料飲&調達知識を公に求める。 4)GM]は着任と同時に調理場に出向き、最低でも週1回は調理場視察を綿密に行う。(食材チェック、衛生チェック、在庫チェックなど) 5)料飲会議には調達責任者を必ず入れ、会議はGM主幹主催を行う」。 6)料理長ならびに調理幹部との定例コミュニケーションの場を持つ。 7)計数管理のできない料理長は解任する。
続いて質問7は、「コンプライアンスを順守した場合、ビジネスは成り立つと思いますか」という問いかけをしてみました。
この回答は、81%の人が「成り立つ」と回答。
そして、質問8で、「ビジネスは成立する」と回答した人に、その理由を聞きました。
嬉しい誤算だったのが、数人の方から「この質問はおかしい。質問者は『そもそも、コンプライアンスを守ったらビジネスは成立しない』という前提でいるのか」という意見をいただいたことです。
私の意見は、そうではありません。私は、「ビジネスの目的はお客さまに価値を提供することであるし、ウソや騙しがあって、がっかりさせてまで利益を得ることは目的と反すること」だと思っています。
ただ、正論を振りかざして、「正直に、誠実に、真っ当な商売をすべき」と声を大にして叫んでも、その結果、利益が残らない環境に日本のホテル業界がなっているのであれば、根本から考えるべきだと思ったのです。終戦直後に、闇市で食べ物を買わずに配給だけで貫いた人が栄養失調で亡くなった事例があるように、この業界も「正直者はバカを見る」状況に陥っているとしたら、正論は理想論で終わります。現に、数人の業界人に聞いたところでは「(コンプライアンスをすべて守ったらビジネスは)難しいでしょうね」という意見でした。
以下、際立ったご意見を紹介します。
●顧客との間に長期的な信頼関係が構築でき、リピート利用率が上がるので。
●コンプライアンスを遵守するのは当たり前のこと。正しいメニュー表記はお客様へのホテルのマニュフェストだと思います。
●全てのビジネスは法的順守の上に成り立つことが前提。形のないサービスを商品として売る業種として最低限なこと。それでビジネスが成り立たないのであれば、市場から撤退すべき。
●プロならできる。アマチュアならできない。
●本当においしモノは、ブランド食材に寄らずにも実現が可能である。
●すべての基準はコンプライアンスを守ることが前提であり、違反しても成り立たつビジネスこそビジネスではなく詐欺なんじゃないですか?
一方で、「成り立たない」というご意見もありました。
●成り立たせなければならない。 でも、本当のところは無理。これが正直なところ。
●利益重視の競争社会である日本では無理。
最後の質問9では、「どうしたらお客さまを欺くことなくビジネスを成り立たせることができると思いますか」という問いかけをしてみた。
以下、特筆すべきご意見を紹介します。
●利益をあげることは企業として当然のことです。ただし利益の追求を目的とすることは間違えです。その経営はやがて破綻します。 2、「企業の目的は顧客の創造である」というドラッカーの言葉を、業態に関係なく反映をする姿勢を持ち、実践することのできる企業になることが唯一の方法です。
●極度な利益至上主義やコスト意識をなくし、商品に見合う対価を得ることから。それでも利益が出ないなら、基本的な部分(ターゲット客や立地や商品そのものなど)を見直し、それでもダメならビジネスそのものを見直すことが大事だと考える。
●楽して儲けようとするのではなく、いかに付加価値をつけて高い値段でもお客様を喜ばせるかということを、もっと真剣に考えて欲しいです。業界の知恵と、料理人の腕が試されるところだと思います。
●現場スタッフは、お客様を欺いている意識はない。ただ、上から「いいんだ、そのままやれ」と言われれば、やるしかないのが実態。 報道によると、一般常識から大きく乖離してしまった非常識なものもあるが、多くは認識不足とプロ意識不足。
●「よい食材=美味しい」という評価概念を変えること。どんな食材であれ丁寧に調理した食事は美味しい。調理人の腕が重要。ブランド食材でなくとも安心安全な食材であればお客様は喜ぶ。
根本的な原因は、「ニセモノを受け入れている日本人の無意識の価値観」にあるのかもしれません。ニセモノのロレックスを、ニセモノと分かって使っている人、ニセモノのブランドバッグを、ニセモノと分かって使っている人も多いです。人工イクラを、人工と分かって食している人。安い居酒屋で「備長炭使用」と謳っていたり、子持ちシシャモの代用魚としてカペリンを使っていたりするのを見ても、「うそつけ」と笑いつつ、受け入れてしまう。
少し、大げさかもしれませんが、日本はウソやニセモノが当たり前にある社会で、それを消費者も無意識に「そういうものなんだ」と認識しているのだと思います。
もともと、日本人には本物のようなニセモノを上手に作る器用さがあるのでしょう。ニセモノの旨味成分である味の素の味を何の疑いもなく味わっているのですから。
ホテル業界の人が「なにをいまさら」と感じるのは、そういう理由かと思います。だから今回の問題は、ホテル業界だけの問題ではなく、日本人全体の問題なのです。
ですから、今回のことを是正する方法や、今回のことを業界・社会の発展につなげるのであれば、本物とニセモノを区別する社会をつくるしかないのだと思います。「本物にはカネがかかり、ニセモノは安い。本物を食べたかったら高い金がかかり、金が出せないのなら、ニセモノに甘んじましょう」という社会にしていくべきです。本物をつくり、本物を提供している人には、真っ当な金額を支払うべきです。本物を提供できないのであれば、それを素直に認めて本物のふりをせず、その代り値段で勝負、料理人の腕で勝負、演出で勝負すべきかと思います。
グランドメニューに「○○産▽◇」なんて載せるから、ウソになってしまうのです。日替わりのコピーしたペラのメニューに「今日は、○○から、●◎が産地直送されました!」と書いたほうがよほどお値打ち感がある気がします。
下記は、『和魂米才のホテルマネジメント』の主人公である飯島幸親氏から届いたメールです。
今回も、発覚した企業のトップが日本の慣例として、並んで「頭を下げる」をしていますが、それだけではなく、企業としての信用、信頼を裏切った事実(消費者を長年にわたって欺いてきた)に対して、以下のような行動をとるべきです。社長が退くなどの首のすげ替えでは問題解決とは言えません。
*詫びるだけでは何の意味もない。「精神的苦痛」と「取りすぎた不当利益」に対しての保障をすること。
*今後の明確な改善策とその持続を確実にするチェック体制の構築を約束すること。
*企業の基本理念:透明性、責任、情報開示、統治能力を行動で示すこと。
*行政の明確な法令規則整備と普及、法令順守(コンプライアンス)のチェック体制の確立と、罰則の強化。
*外部専門機関のチェックを導入、同時に社内トレーニングの実施と検査の強化。
*総料理長に関しては、職務権限、行動規範(ジョブディスクリプション)を明確に記すこと。
結局、ビジネスは「ごまかさず、正直に、嘘をつかない」が根本精神であり、正しい企業活動理念とは「当たり前のことを、当たり前に、消費者にお届けする」を継続実行するのみである。
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