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【13.10.30】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.73)
「自分ゴト」の仕事を企業の付加価値にしていく
先日、宿屋大学の講座に参加された方が、こんなことを吐露されました。飲食店を長年やっていて、すでに十ほどの店舗を経営している50代近い男性経営者です。
「ビジネスを大きくすることを懸命に目指してきました。そして、いま目指した形になりつつありますが、ふと立ち止まって思うことは『いまの仕事って、本当にやりたかったことなのかな』ということです。お客さまの顔を見ながら現場で、ああだ、こうだスタッフたちと一緒に汗を流していたころが懐かしいです」
会社が大きくなって、経営者はマニュアルを整備して、現場のスタッフにそのマニュアル通りに動くことを指示する。見るのは現場のスタッフやお客さまではなく、上がって来る経営数値ばかり。「経済的成功者にはなれたけれど、なりたかった自分の姿とはちょっと違うと感じ始めた」という話です。さらには、現場スタッフはみな浮かない顔をしているといいます。本来、接客が好きで飲食店というサービス業をしているにもかかわらず、接客していても、ちっとも楽しそうじゃないらしいのです。
逆の例がホテルグリーンコアにありまあす。グリーンコアの某チーフは、「グリーンコアに来て、仕事って楽しいものなんだ」と気付かされたそうです。前職は、工場のラインで働いていたそうですが、仕事は流れて来たものに自分の工程を加えて次に流すことの繰り返し。「早く、終わらないかなあ」とばかり考えていた。「仕事とは、自分の時間を提供し、苦役の代償として賃金を得るもの」としか考えられなかったといいます。いまは、自分が必要とされていることを感じつつ、積極的に新しいプロジェクトを提案して実行している仕事が楽しくてしょうがないそうです。
資本主義経済においては、労働生産性や利益率の追求が大命題となっています。消費者が支払った額から原価やコストを引いたものが利益であり、その最大化を経営者は目指しますから当然です。消費者が支払う金額(つまり、売り上げ)をアップさせることが難しくなると、人件費を削り、原価を下げる方向で、利益を追求するようになります。
ところが、このベクトルで進んでいくと、二つの問題が生じます。
一つは、スタッフの問題。スタッフはお客さまの顔が見えなくなり、自主性を失ってしまいます。接客を、よりスピーディに「さばく」作業にしてしまう。心を込めるなんて余地はなくなります。結果、仕事がつまらなくなる。スタッフは機械の一部に徹するだけとなり、モチベーションどころではなくなります。冒頭の飲食店の現状も、グリーンコアの某チーフが勤めていた工場のラインも、こうした論理で仕事がつまらなくなっているのだと思います。
もう一つは、商品の問題です。魅力が低下します。生産性を高めることを追求しすぎると、規模の経済を利かすために大量生産という方向を目指します。それはときにコモディティ化を招き、価格競争に巻き込まれます。するとまた生産性を高め、経費・原価を抑えるという方向になるのです。結果、安かろう悪かろうの商品になる。
今回の、世間を騒がせている不祥事の原因も、この論理構造の罠にはまっている結果なのだと思います。利益追求の方向性が、商品の品質をアップして売り上げを高めようという方向ではなく、無理な原価圧縮に向いてしまった結果です(表示が違っていることを悪いことと考えない空気が蔓延し、お客さまを欺いているという認識がないのだとしたら、問題はもっと深刻だと思います。スタッフがロボットになって、なにも感じず、なにも自分で考えないでよい環境になっていたのでしょう)。
仕事を「自分ゴト」にしてもらうことです。自分ゴトの仕事は楽しいし、どんなに長い時間働いても、どんなにしんどくても楽しいし、いい仕事ができたときは達成感を味わえます。
スタンダード(基準)の型があって、その上に個人の判断や個性や工夫を加える余地をたくさん残しておいてあげる。細かい判断は現場に任せる(現場のことは現場が一番よく知っている!)。そのプラスアルファを付加価値にし、かつ競合との差異化にし、その結果として利益に変えていく。
こんな経営が実現したら、スタッフのモチベーションも利益も、両方一度に高められ、さらには、お客さまを欺くことに疑問を抱くと思うのです。