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【13.10.17】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.72)
“おもてなし”は、国際的な競争優位性になるのか
今回は、「生産性」と「おもてなし」を考えてみたいと思います。
日本のホテル企業の多くが満足な利益を生み出す経営ができていない現状では、この議論は早計かもしれませんが、いくつかの日系ホテル企業が海外進出をしようとしているいま、日本の競争優位性を考えてみることは大事なことかと思います。
私の知り合いのホテリエで3〜5つの国際ホテルブランドを経験している人たちが口をそろえて言うことに、「どこのブランドの運営手法もさほど変わらない」ということがあります。欧米で発達したホテルマネジメントのグローバルスタンダードをどこでもやっている(日系ホテル企業は、その導入も発展途上?)。つまり、コモディティ化してしまっているのです。
よって、日系ホテル企業が、そのグローバルスタンダードを持って海外進出しようとしても勝ち残れない、だから、「和魂洋才のように、グローバルスタンダードの機能性や効率性重視の部分は取り入れつつ日本人ならではの長所を加えていくことが一つの競争優位性になる。その日本人ならではの長所というのは、“おもてなし”である」という意見を耳にします。
「欧米企業の良いところを吸収しながらも、日本企業の独特な経営スタイルは維持すべきです。おもてなしを強調することは、このようにグローバル化しながらも日本企業としての独自性を失わないことにもつながると思います」 by ジェスパー・エドマン専任講師 〜「なぜ日本企業は“おもてなし”を収益源にしないのか?」(日経ビジネス)
日本の“おもてなし”は、果たして国際的な競争優位性になるのでしょうか。“おもてなし”がコストになってばかりで、利益につながらないで終わってしまうことはないのでしょうか。
個人的には、日本人の“おもてなし”は、武器になると思っています。ただ、それは「相手のことを相手以上に思ってあげられる気持ち」を持つ日本人一人ひとりの強みであって組織力として企業の優位性として確立できているかというとはなはだ疑問です。
日本人が「相手のことを、相手以上に考えて施しをする」行為をするときは、おそらく見返りなんて考えていません。だから相手の心に響くのです。打算がないところが美徳とされるのです。「おもてなし」と、打算的に「ホスピタリティ・ビジネス」を一緒に考えてしまうから本質を見誤ってしまうのだと思います。
最近、日本を代表するホテル企業の人事担当者や経営者を取材して、「御社ではホスピタリティを定義付けていますか?」と聞いているのですが、残念ながらどこも社内の共通言語としてホスピタリティを定義づけていないようです。つまり、一人ひとりのスタッフがバラバラにホスピタリティを理解しているのです。
“おもてなし”(≒ホスピタリティ)を競争優位性にするのなら、ホスピタリティを社内で定義して、それをビジネスにつなげるメカニズムを共有していく必要があります。それをしないで、「日本人の長所である“おもてなし”、ホスピタリティを優位性にしていこう」といっても、無駄に終わる(コストに終わる)と思います。
ホテル企業は、“おもてなし”で顧客を創って売り上げを上げていくことを考える一方で、やはり、機能性、生産性、効率というものも考えていかなければなりません。前者が売り上げを作る努力で、後者がコスト削減の努力で、その引き算が「利益」ですから、当然、両方を意識することが経営のキモなのです。
先日、宿屋塾で講演していただいた株式会社アゴーラ・ホスピタリティーズの浅生亜也社長は、上記のような「式」で、これを社内共有しているそうです。分子がアウトプット(売り上げ)で、分母がインプット(経費・コスト)です。分子を増やし、分母を減らす努力を、このように分解して考える仕組みをつくっています。概して、日本のホテル企業は、アウトプットを創るためのインプットの量が多すぎるために利益が残らないのが課題ですから、これを社内全体で考える取り組みはとても重要なことだと思います。
接客の表舞台で、涼しい顔をしながら“おもてなし”をしつつ、水面下では生産性アップ、効率化アップという努力を必死でやっている・・・、こんな日系ホテルの姿が10年後、世界中の都市で見られることを願ってやみません。