【13.09.17】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.70)

業務プロセスの見直しと滝川クリステルの「お・も・て・な・し」

 9月13日の「ダイヤモンド・オンライン」に、星野リゾートの星野社長のインタビュー記事が掲載されました。「埋もれた内需を掘り起こせ 観光立国化に足りない二つの施策」というタイトルの記事です。
 政府と経営者の両方に対し、生産性を上げる施策が必要と語り、「観光産業の経営者に足りないのは生産性を上げようという気合」だと指摘しています。
 星野社長がおっしゃる通り、概して、日本のホテル業界は、顧客満足や売り上げを追求するための「業務プロセス」に問題があるのではないでしょうか。
 ボランティアではなくビジネスとしてホテル運営をしているのであれば、利益創造は当然の使命です。顧客創造、顧客満足の結果として利益を残すことを考えなければならないのに、そのプロセス、仕組みが完成されていないことが問題です。
 一例を挙げると、製造業において工場の生産ラインは100%稼働することが当たり前になっています。誰一人として手を休めてボーっと立っているだけの人はいません。翻ってホテルのロビーフロアやレストランを思い浮かべると、そういう人が多いと思いませんか? サービス業という特性上しょうがないということもありますが、欧米のホテルと比べるとはるかに人が多すぎる気がします。
 一事が万事、無駄が多く、非効率、非生産的なオペレーションをされているホテルは、利益を残す業務プロセスを再検討してみてはいかがでしょうか。


 上記の図は、ホテルにおいて利益を創造するための分解の木です。このブログを書くにあたって簡単に思いつくまま作成しただけのものなので抜け漏れが多いかと思いますが、構造的、俯瞰的に見ることによって、どこが問題でどこをテコ入れすべきか、力点を置くのはどこかが見えてきます。右側が「売上up」の木、つまり攻めの施策で、左側が「コスト減」の木、つまり守りの施策です。業務プロセスの見直しは左側の改善です。
 単に原価を下げればいい、人を減らせばいいという話ではなくて、無駄なコストを垂れ流していないか、無駄なシフトを組んでいないかを再確認することが必要かと思います(すでに完璧にやっているホテルさまはこのくだりは無視してください)。

 滝川クリステルさんのプレゼンによって「お・も・て・な・し」という言葉が脚光を浴びているようです。世界のなかの日本として「おもてなし」が日本人の特長であり、優位性であることが認められたことは喜ばしいことですが、ビジネスとしてとらえたとき、とても危険な響きを伴ってしまいそうです。
 一つは、「おもてなし」=「ホスピタリティ」と訳されること。
 二つ目は、「ホスピタリティビジネス」の定義が明確にされないこと、です。
 ビジネススクールである宿屋大学が、ここ数年、石丸雄嗣氏やホテルグリーンコアと「ホスピタリティ・ロジック」を業界の皆様に提案しているのは、すべて「ビジネス」のためです。価値と利益の創造のためです。これが、たんに「おもてなし(日本のホスピタリティ)と理解され、闇雲に「おもてなしを一生懸命しよう」という気風になると誤解を生みます。

 簡単に説明しますと、図の右側のように、売り上げを高めるにはたくさんのお客さまに来てもらうこと(客数増)と、たくさんのお金を使ってもらうこと(単価up)の二つの方法があります。そして、お客さまにも二つあって、新規客とリピーターです。平たく言うと、ホスピタリティ・ロジックは、新規客を新たに獲得していく方向ではなく、リピーター(顧客)を創っていって、何度も利用していただくことで「客数」を増やし、さらには「たくさんのお金を使ってもらう(顧客ほど価格コンシャスではなくなるというデータがあります)」ことを目指します。顧客やファンの方々は、口コミで新しいお客様を呼び込んでくれるので、新規客も結果的に増えていくのです。長いスタンスでホスピタリティ・マネジメントを行なっていき、数年後には、顧客で館内が満たされるという経営状態になることで、堅強な経営体質を創っていく。それが、ホスピタリティ・ロジックです。
 もちろん、各社各様のビジネスの目的やオーナーが求めるものが違ったりしますので、ホスピタリティ・ロジックが万能とは思っておりませんし、図の右側にあるように、売上upの施策は無数にありますので、有効的と思われる施策に優先順位をつけて行っていくことが大切かと思います。
 自社の課題は何か、自社の置かれた状況を俯瞰し、構造的にとらえることで問題が見えてくると思うのです(ここでは自社内の分析に限定しましたが、外部環境分析も重要です)。


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