【13.07.08】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.65)

なぜホテルマンは、“おもてなし”をしなくなるのか

       ホテル志望の若者のホスピタリティを奪うものはなにか?!


 日本のホテルで働く方々は、その多くが「お客さまの喜ぶ顔が見たくてホテルに入社した」方です。「おもてなしがしたい」というのが、ホテルへの志望理由の大半です。
ところが、残念なことに大半の人が、ホテルで働き始めた途端、そういう思いを失くしてしまいます。

 先日、ある勉強会がありました。その中で、ホテルグリーンコアの金子祐子新社長(7月1日から代表取締役社長に就任)がファシリテーターとなって、「スタッフが自発的に動くにはどうしたらいいか」というテーマで対話するグループワークをやりました。そこで、ある30代後半のホテルマンがこんなエピソードを紹介してくれました。

「入社当初、深夜遅くにご宿泊中のお客さまから電話がありました。雪の降る真冬のことです。フロントバックで夜勤をしていた私が電話に出ると、年配の男性が『ポカリスエットがどうしても飲みたい。頼めないか』とおっしゃいました。ホテルには在庫がなく、コンビニエンスストアに買いに行くことをお薦めしようと思いましたが、雪の降りつもる深夜ですし、年配の方でしたので、『分かりました。いまから私が買ってまいりますね』と伝えて5分ほど席を離れて買いに行ってお部屋までお届けしました。お客さまは大変喜ばれました。ところが翌朝、それを知った先輩から、怒りを込めた叱責を受けました。『おまえが、そんな勝手なことをすると、また頼まれたときに、同じことをしなくてはならなくなるだろうが! 今後、一切そういう余計なことはするな!!』と言われました。当時は、『自分は何一つ悪いことはしていない』と思い、少しふてくされましたが、それ以降は、どんなにお客さまのためになることでも、先輩から余計なこと呼ばわりされることはしなくなりました」

 おそらくこのブログを読むホテル業界の方の中にも、同様の体験をされた方は多いと思います。「なんでそんなこと、やるんだ」という一言で、「言われたことだけやってればいいんだ」と思い、余計と考えることはしなくなる。マニュアル通り、ルール通りのことをし、例外を作らないようにするという経験です。

 結果、ホテル業界の人たちは、思考停止状態になる。変革をしなくなる。自発的な行動をしなくなる。「お客さまのお役に立てることはできる限りやろう」という気持ちよりも、「例外を作りたくない」という会社の都合を優先させるようになってしまう。結果、すべてをマニュアルが判断し、マニュアル通りにしか動かないロボット人間になっていく。

 ホテルの現場でも、「もっと自発的に行動しろよ」とか、「考働しろ(考えて動け)」という発言を耳にしますが、まったくもって上記のマネジメントスタンスと正反対の指示になっています。第一、「自発的に、行動しろ」という意味自体、矛盾しています。

 人は、「自発的に行動しろ」と指示されても自発的に動くものではありません。
 そうではなくて、「あなたが正しいと思うのだったら、どんどんやりなさい。責任は私がとるから」という上司の一言で、人は動くようになるのです。

 ホテルグリーンコアは、まさにそんなスタンスのマネジメントをしています。「管理はするけれど干渉はしない」とおっしゃっています。
経営者である金子兄妹が、絶対に口にしないようにしているフレーズがあります。それは、「そんなこと、聞いてないよ」という言葉です。スタッフが自ら考えて起こした行動を後から聞いて、「おれはそんなこと、聞いていない」と口にした瞬間、自発的な行動は制限されます。二度と、主体性を伴った判断と行動はしないようになるでしょう。
 そうはいっても、自発性を重んじるマネジメントをすると、経営者は知らないことだらけになります。後から聞いて驚くことも多くなります。私も前職で部長職をしていたときは、部下に戦略の目的とゴールの目標だけ伝えて手段は自由に考えてもらっていました。そうすると私としては「ちょっと違うんじゃないの?」と思う行動や企画も上がってきましたが、そう言うのをぐっと我慢し、自由にやらせていましたが、ここは経営者やマネジャーの覚悟が必要なところです。
 経営者やマネジャーが、その覚悟を持つことから、組織に当事者意識が芽生え、自ら動くホスピタリティ組織が醸成されていくのだと思います。

追伸 上記のブログにうなずかれた方、下記の宿屋塾は超おススメです。

宿屋塾「自ら動くホスピタリティ組織の作り方〜アプローチ・オペレーションを発動させるマネジメント」講師:ホテルグリーンコア 代表取締役社長 金子祐子氏

URLhttp://yadoyadaigaku.com/program/JK1308.html




















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