【13.06.24】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.64)

好循環を考える 〜「宿屋大学@九州」レポート

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 6月15日(土)・16日(日)の二日間、福岡市にて初の試みとなる「宿屋大学@九州」を開催いたしました。人気講師6人による90分講演に、のべ290人がご参加いただきました。週末にもかかわらずお集まりいただいたみなさま、そして熱のこもった講演を披露された講師のみなさま、本当にありがとうございました。

【宿屋大学@九州】「ホテル・旅館のネットマーケティング」&「顧客創造を利益に換えるホスピタリティ」http://yadoyadaigaku.com/program/JK1305.html

 6つの講座はどれも秀逸かつ熱いものでしたが、特に石丸雄嗣氏の「ホスピタリティ・ロジック」は、新しいアプローチでの紹介で、実に面白かったですし、小林武嗣氏の「レベニュー・マネジメントとCRMの融合論」は、初めて聴く講義内容でしたが、これからのホテルビジネスには欠かせない貴重な内容でしたので、ここではこの二つの講座を紹介します。

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 石丸さんの講義は、これまでは「サービスの対極にあるホスピタリティの概念」を説明され、「ホスピタリティ・マネジメントこそ、大企業に勝つために中小が採るべきスタンスとして最も有効的である」という話なのですが、今回は、まず二人一組になってワークをしていただき、その結果、「ホスピタリティの関係(非分離で述語的な関係)」を体感していただいてから、論理の説明をされていました。
 サービスは、「いつでも・どこでも・誰にでも、画一的、効率的にスピーディに提供するもの」であり、ホスピタリティは、「このとき・この場所で・この人のためにして差し上げること」です。ホスピタリティをすることによって、生涯顧客を少しずつつくっていく。最初は数パーセントでしょうが、徐々に3割になり、半分になり、5年もすればお客さまの大半が生涯顧客になっているという状況を目指すのがホスピタリティ・マネジメントです。京都の高級老舗旅館などは、そんなスタンスを何十年も貫いているのだと思います。一方のサービスは、効率・生産性を重視します。だから、大資本、チェーン店が有利なのです。独立系企業や中小企業が、このスタンスで戦っても勝ち目はありません。必ず価格競争になりますから、そうなったら大資本が勝つのは自明の理なのですから。

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   講演会終了後、講師の皆様と嬉野温泉で打ち上げをしました


 小林さんの「レベニュー・マネジメントとCRMの融合論」も、提唱するマネジメントの方向性は近いものがあります。つまり、「生涯顧客を大事につくって行きましょう」ということです。生涯顧客の創造を石丸さんはホスピタリティによるオペレーションで行なっていく方法ですが、小林さんはシステムで行なう方法です。
 需要を予測して販売を調整しながら、日々の売り上げを最大にしていくレベニュー・マネジメントは大事です。短期的な売上向上にはとても貢献します。けれども、上得意のお客様をないがしろにしてしまう可能性があるので、長期的に考えたらレベニュー・マネジメントオンリーというマネジメントはまずいという警鐘です。
 小林さんは、レベニュー・マネジメント(前はイールド・マネジメントという名称が主流でしたが)を編み出した米国の航空業界の「イールド・マネジメントを導入したほとんどの航空会社は、一時売上を上げたが、その後、ほとんどが赤字に転落した。イールド・マネジメントを導入しなかったサウスウエスト航空だけが好業績を維持している」という歴史を紹介された上で、CRMの重要性、「お客様との一生涯のお付き合いでの価値最大化を目指すことが長期安定成長企業への道」であると話されました。

 企業経営をゴルフに例えられていたのが実に分かり易かったです。
「フォームも重要だが、基礎体力も必要。腕のいいコーチなら、フォームを直せば200ヤードを飛ばす人をすぐにでも210ヤード飛ばせるようにできます。それで『ああ、コーチの言うことを聞いていれば、どんどん良くなる』と勘違いします。でも、その人は300ヤード飛ばせるようにはなりません。限界が来ます。300ヤードを飛ばすには筋力アップが必要だからです。それに『この筋肉だけアップ』とやっても怪我が増えるだけなのも同じです。全体的な体力アップをしなくてはなりません」
 この「筋力アップ」こそ、生涯顧客の創造なのです。

  アゴーラ・ホスピタリティーズがマネジメントして絶好調の「ONCRI」を視察


 こうして考えていくと、小資本である宿屋大学も、ホスピタリティ・マネジメントというスタンスでホテル業界のみなさまや、講師のみなさま、ご支援くださる皆さまとのご縁を大切にし、生涯つながる関係性を維持していくスタンスがとても大事であることが分かります。ホテル・旅館業界という小さな業界ですから、新規のお客様ばかりで成り立つわけがありません。「業界向上という思い」を共通の価値として、地道にコツコツ、一人ひとりと対峙して、誠実にお付き合いしていく。効率性・生産性・高利益率などを目指すと、ホスピタリティ・マネジメントは難しくなります。ですので私の人生は生涯「貧乏暇なし」状態なのでしょうが、これ、けっこう気にいっています。

 今回の九州開催も、ある支援者が背中を押してくれたおかげで実現しました。お陰で、九州の業界のみなさまと新たにつながりができましたし、DVD販売や、研修請負という依頼につながりました。新しい講座企画も思いつきました。前回の関西開催の後には、「宿屋大学のサテライト教室をうちで開きたい」というありがたいオファーもいただきましたし、講師の方々の新たなビジネスにもつながっているようです。スタジオ機能を設けた新しい東京YMCA国際ホテル専門学校の教室で宿屋大学を開講することによって、そのスタジオ機能の認知度が上がり、利用者が増えているようです。
 ビジネスを取り巻く環境が、好循環しているようです。一つひとつのプロジェクトというアクションプランを羅列しているのではなく、結果的につながりになっていくことで、ビジネスは健強になっていくのだと思います。
 逆を言えば、そのなかの大事な要素(楠木建先生のいうクリティカルコア、宿屋大学の場合は、「業界をよくしたいという志」だと考えておりますが)をなくしてしまったら、すべては崩れ去るのだろう・・・。

 最近の私の、最も大きな気付きはこれです。
 

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