【13.04.30】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.60)

愛情の伴わない厳しさは、ただのいじめ

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 大学を卒業して都内の某シティホテルに就職した女子が昨日、退職願いを提出しました。
 たった一カ月でホテルを去ります。
 理由は、理不尽な嫌がらせ。ろくな指導もなしにやらされる仕事でミスをし、それを責められ、おまけに「あなたのせいで仕事が増えた」とちくちく言われる。明らかにオツボネ的な存在の先輩の周りにはイエスマンばかりで、嫌われないように振る舞っている。上司も人事も「悪いのはお前だ」と言って、オツボネの存在や職場環境は問題視しない。

 このホテルは、離職が激しいホテルです。その結果、20代前半と40代ばかりのスタッフで、30代が非常に薄くなっています。サービス残業はあたりまえ、会社に泊まることも日常茶飯事。従業員食堂に笑顔はなく、みな寝ていたり、ボーっとしているだけ。職場では、指導はほとんどなく、失敗したら叱るだけ。いじめをする人を会社は黙認。そんな職場環境だから、そのホテルで実習をした学生は、ほぼ全員「こんなホテルに就職したら自分が壊れる」と言って、就職したがらない。

 私は、このホテルが一方的に悪いとも思いません。企業は従業員の幸せのためだけに存在しているわけではないとも思いますし、企業は教育機関ではないとも思っています。ですので、一カ月で見切りをつけたこの新卒者を肯定しているわけではありません。判断が早すぎたかもしれないとも思います。耐性がなさすぎるとも感じます。

 それでも、こういうホテルがあることにが、とても残念です。
 いまだに、スタッフを「代わりの効くコマ」としか扱っていないのかと思います。企業が、「劣悪な環境に耐え、サービス残業や、一時間前出勤を疎まずにし、処世術に長けて上司や先輩に好かれる人材だけが残ってくれればいい」というスタンスであり続けるのであれば、この業界はますます不人気業界になり、人が集まらず、競争力をなくしていきます。
 今後、もし少子化が進み、かつホテル就職志望者が減り続けるのであれば、優秀人材や、根性のある人は減っていくでしょう。必要なのは、特段優秀ではないし、ストレス耐性もそれほどあるわけではない人たちにも活躍してもらう環境づくり、人材育成の取り組みです。
 挫折して去っていく新人を「根性ねーな」「いまの若いやつはほんと、堪えしょうがない。学校はなにを教えてるんかね」という一言で片づけないで欲しいのです。彼ら彼女らにも当然否はあるでしょう。それで終わらせないで、「職場環境を改善する努力」「誰でもすぐに働けるようになる人材育成の仕組みづくりの努力」をしてほしいのです。その人のせいにだけしないでほしいのです。
 辞めるまでの期間、辞める決断をした人はなんらかのサインを出していたはずなんです。サービス業従事者であるホテル業界人が、そのサインに気付かず、汲み取ってあげられないことを恥じてほしいのです。

 利益獲得は、企業活動の目的の一つです。でも、利益や会社のために、社員の幸せが犠牲になってもいいのでしょうか。私は逆だと思っています。むしろ、一人ひとりの幸せを会社やマネジャーや先輩が真剣に考える企業こそが繁栄するし、逆に、一人ひとりの幸せを追求できない企業は早晩朽ちていくでしょう。

 親会社やオーナーから「約束の利益をきちんと上げろ」というプレッシャーがあるのは理解できます。でも、もっと人を大事にしてほしいのです。大切にし、愛情を注いで育ててほしいのです。厳しくすることと、愛情を注ぐことは対義語ではありません(ある意味では同義語かもしれません)。いじめと指導を混同しないでほしいのです。スタッフ一人ひとりにも両親がいるのです。自分の子供が上司や先輩から扱いを受けるときに、そうしてほしいと思うように、自分のスタッフを指導してほしいのです。愛情の伴わない厳しさは、ただのいじめだと思うのです。

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