【13.01.22】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.53)

ホテリエという仕事を、小学生が就きたい職種ランキングに入れたい

photo by Eri Sasaki by iPhone 5

 毎年この時期になると宿屋大学を一緒に運営してくれている東京YMCA国際ホテル専門学校の入学案内パンフの取材・執筆で多くのホテルをまわります。
 先週金曜日、朝の7時から東京ステーションホテルで同校の卒業生を3人インタビューしましたが、久しぶりにホテルマンをインタビューして泣きそうになりました。そのくらい感動しました。3人とも「YMCAの2年間で自分が変わりました。YMCAは、自分の原点です」と学校への心からの感謝を伝えつつ、同時に東京ステーションホテルのこともみな賞賛するのです。自分の母校、自分の働くホテルを心から慕っているんです。
「このホテルは、メンバーがいいんです。いろんなホテルからスタッフが集まっているのですが、こんなに仲のいいホテルはないです。それに皆モチベーションが高いし、温かいんです」と口を揃えます。
 私はこの発言を聴きながら、納得しつつもこう思っていました。

「そもそも集まった人がモチベーションが高く、温かいのではなく、ここに来たら、そうなった人が大半なのだろう」、と。

 24歳の宿泊部の女性スタッフFさんがこんな話をしてくれました。

「私はゲストリレーションズが初めてなので、お客さまとの距離感をどれだけとればいいかがまだ測りかねています。でも、一人ひとりのお客さまに合わせて、その間合いをどう取っていけばいいかを考えるのが、今とても楽しいです。つい先日いただいたゲストコメントに『もう二度と泊まれないかもしれないと思ってこのホテルに来ました。東京に来る機会もほとんどないですので。でも、Fさんという方が、親しみやすい接客で、本当に親切に案内してくれたお陰で、この上ない宿泊体験ができました。ありがとうございました』とありました。とても嬉しかったのですが、口には出さないけれど、そんな思いでご宿泊される人って、けっこういるのではないかとドキリともしました。人生で一回きりの東京ステーションホテルのそのお客さまの想い出のなかに私がいる。『そこ、ちゃんとやっていなかったらどうなっちゃうんだろう』って考えたら、客室アテンドも、気を抜けないです。一つ一つが、最初で最後だと思って真剣にやるようにしています」

 その後、藤崎総支配人と岡泉総務・人事支配人と東京YMCA国際ホテル専門学校の小畑副校長に、「Fさんが、こんな素敵なエピソードを語ってくれました」と伝えたら、3人とも眼鏡をはずしてハンカチを出して赤い目を拭き始めました。現場を支えるスタッフ、教え子の頑張りに感極まって・・・。
 そのあとは、ずっと現場スタッフは素晴らしい、自分たちマネジメントはもっと頑張らないといけない、現場スタッフに勇気づけられてばかりです、といったスタッフ自慢話大会(?)が始まりました。
 スタッフに感謝し、スタッフにたっぷりの愛情を注ぐ総支配人を見て、再度、こう思いました。

「モチベーションが高く、温かい人が集まったのではない。ここに来たら、そうなってしまう」

 この「場所」、そういう空気が流れる空間をつくるのは、やはりリーダーです。ホテルで言うなら総支配人です。総支配人が「おまえら、すごい。おまえならできるよ」って、背中を押してあげ、期待すると同時にバックアップもする。そうすると、スタッフは期待に応えようと頑張る。結果、信じられない力を発揮するし、成長する。
 そんな「愛情の巡る空間」に流れるいい空気を最初に発信するのは総支配人なのだと思います。愛情と思いやりが巡る場所を作ることが、ホテルとして最大の競争戦略になるのですね。

「サービスは、一方的に、また自己満足的に"提供"するものではなく、ホテルという空間で、お客さまと".共感"することによって成り立つ」

これは、藤崎総支配人がいつもスタッフに語っていることのようですが、このFさんの話を聴いて、それは「確信」に変わったと教えてくれました。この"共感"は、スタッフとお客さまとの間だけではなく、マネジメントとスタッフの間にも確固として存在しているのだろうと思います。だからこそ、お客さまと共に響き合うことができるのだと。

 やる気のある新入ホテルマンが、目の輝きを徐々に失っていくホテルが多いなか、働けば働くほど目の輝きが増していくホテル。東京ステーションホテルは、まさにそんなホテルです。
 敬愛する旧知の先輩である岡泉さんが、ぽつりと語りました。
「ホテリエという仕事を、小学生が就きたい職種ランキングに入れたい」
 これは、現在日本代表ソムリエである森覚氏が、第一回「近藤マイク誠賞」の最終面接会で語ったフレーズです。それを宿屋大学でも借用してヴィジョンとして掲げていて、それを仲間と共有しているのですが、東京ステーションホテルのようなホテルが増えれば、きっとそれは実現するでしょうし、そんなムーブメントが日本のど真ん中にあるこのホテルから広がるといいと思います。この駅から日本全国に伸びる列車のように・・・。




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