【12.09.02】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.44)

「スペック」ではなく「スタッフ」。「ハード」ではなく「ハート」

             Fuchun Resortのレイクラウンジ  

 久しぶりに上海に行きました。
 意図的にではないのですが、上海は約5〜7年おきに訪れています。最初に旅したのは、学生時代の1990年、神戸港から鑑真号という船で上海に渡り、鉄道に3泊4日乗って新疆ウイグル自治区にあるトルファンというオアシスを訪ねたときでした。まだ、兌換券という外国人専用の紙幣が使われていて、人々は人民服を着て自転車の集団となって街を走っていた時代でした。
 その旅で、上海駅から乗り込んだ列車のことは今でもよく憶えています。改札が開いた途端、待ち構えていた多数の人たちは、我先にと一斉に列車めがけて走り出し、乗り込んでいきます。窓から進入しようとする人もいました。皆が皆、「自分さえよければ」、「自分さえその長旅を送るための良い席を確保できればいい」という感覚です。無秩序状態です。そんな迫力に押されて、私は席を確保できず、床で3泊4日を送ることになりました。中国人の「自分さえよければ、他人のことは我関せず」というスタンスに驚きつつ、圧倒されました。
 ところが、旅を続けるに従い、近くに座る人たちとコミュニケーションをとり出し、筆談などをして仲良くなると、彼らは一気に変わりました。私をとてもいたわってくれるようになったのです。ひまわりのタネをはじめ、いろんな食べ物を分け与えてくれたり、「自分の家に来ないか?」と誘ってくれたりしました。お陰で、床で寝続けた列車の旅もとても楽しいものになりました。
 後で読んだ本によると、「内と外を明確に分ける」のが中国人の気質なのだそうです。内側の人(つまり、仲間と認めた人)は大事にするけれど、外側の人(見ず知らずの人)には、関心も持たず、興味もない。これが、狩猟民族の末裔である中国人の性質なのだそうです。
 上海の街は、行くたびに街の景観やインフラには大きな変化があります。いまでは100階建てのビル(森ビルですが)や430km/hで走るリニアモーターカーなど、日本や欧米を凌ぐ発展を遂げていますが、私が最初に訪れた20年前に比べたら進化・発展しているとは思いますが、上記の国民的な気質はあまり変わっていないように感じました。
 接客にしても笑顔で応対しない人が大半です。みなさん、ムスッとしています。地下鉄では、下車する人がいるにもかかわらず、扉が開いた途端に乗り込んできます。飛行機は出発が一時間も送れているのに何の説明もお詫びもなく、到着時も一時間もディレイしたにもかかわらずお詫びの一言すらない。タクシードライバーの運転は、まるでカーレーサーのようです。クラクションを鳴らし続けて車線変更を頻繁にして追い抜きます。
 要するに、他人に関心がないし、興味がない。よって、配慮をしないということのようです(あくまで一般論であり個人的な感想です)。


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          上海の象徴のひとつ「外灘(ワイタン)」の夜景
 
 今回は、杭州の郊外にある「Fuchun Resort(富春山居)」という中国屈指の高級リゾートの取材が目的だったのですが、ほかにも注目のホテルを巡ってきました。ゴージャスなインターナショナル高級ホテルブランドから、デザインやコンセプトに優れたブティックホテル、リーズナブルな宿泊主体型ホテルチェーンまでできていて、中国(沿岸地区)のホテル業界は、オペレーションの質を除けば、相当成熟してきているように思えました。
 その取材旅行で最も強く感じたことは、ホスピタリティ(自分を消して相手を思いやる気持ち)こそ、日本が世界に売っていける大きな価値であるということです。売れるというよりは、われわれ日本人が世界に広めていかなければならない人類にとってとても大事な価値観だと思いました。
 現状、中国のホテルはどこも、スペックの良さや、デザインの先進性といったハードを売りにしているし、お客さんもそこでホテルを選んでいるようです。ですので、ホテルスタッフの大半は、ホテルで働くことにお金以外の価値を見出していないし、よってやる気も笑顔も極めて少ないです。そもそも、人に関心を抱かない人がサービスをやっている時点で、機械と一緒ですね(いや、機械の方がまだ気分を害されないのでましです)。
 しかし、中国のホテルユーザーも、物質的な豊かさを十分に味わった後は、必ず精神的な豊かさ、つまりは思いやりのあるホテル、笑顔あふれるホテルを求めるようになり、それが競争優位性になっていくと推測します。
 ちょうど、中国に行く前日に宿屋塾でご講演いただいたアパグループの元谷一志社長が、「日本の宿泊主体型ホテルは、国際的にみても競争力のあるものだ」とおっしゃっていましたが、中国のホテルを見て、それを実感しました。
 ホテルを価値あるものにするのは、デザイナーや建築家ではなく、ホテリエであるべきです。勝負どころはスペックではなく、スタッフです。ハードではなくハートで勝負するのです(もちろん、利益を残していく仕組みづくりが前提ですが)。
 それこそが、日本が誇れる宝であるし、ホテリエの存在価値であり、やりがいを見出す部分であると思います。


〜・〜 おまけ 〜・〜

 今回訪れた注目ホテルを紹介します。

Fuchun Resort(富春山居、杭州)
http://www.fuchunresort.com/jp/

上海から新幹線で45分の杭州駅から車でさらに45分の山のなかに位置している大きなリゾートです。この地をいたく気にいった台湾の実業家が20年近く前にまずゴルフ場を造り、そのあとに高級リゾートを開発したそうです。アマンリゾートやバンヤンツリーと比肩する中国屈指のラグジュアリーリソートです。


どことなくアマンに似ていると感じていましたが、やはりデザイナーはアマンリゾートも手掛けている方で、さらに開業当初はGMH(アマンの兄弟会社です)が絡んでいたそうです。


資金を出し惜しみしないでとことん細部までこだわって作ったリゾートホテルで、上質な空気が全体に広がっています。

naked Stables Private Reserve(浙江省コ清)
http://www.nakedretreats.cn/naked-stables-private-reserve/

企業などのMICEのミーティングプランナーが、上記のFuchun Resortとよく比較するリゾートがあるというので行ってみました。中国人のデザイナーの奥さんを持つ南アフリカのオーナーが開発・運営しているラグジュアリー・エコ・リゾートです。山のなかの谷を切り拓いてつくったリトリート(隠れ家)のような自然を満喫するリゾートです。敷地はお茶畑と竹林に囲まれていて、人工的なものがなにも見えない環境です。食事やお酒、スパやプールを楽しむだけではなく、乗馬や釣り、竹林ハイキングなどのアクティビティも豊富です。


中国人富裕層や、中国在住の外国人がたくさんここに来て楽しんでいました。年間平均稼働率は80%だそうです。一泊最低2000元(約28000円)ほどです。場所は、上海から車で3時間、杭州から1.5時間ほどのところです。送迎バスあります。


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URBN hotels shanghai(上海市静安区)
http://www.urbnhotels.com/

知る人ぞ知るデザインホテルです。上海のクラスカといった感じでしょうか。24室と小さいですが、元・郵便局だった古い建物をリノベーションしてホテルにしてしまったハイセンスな空間です。ゲストの8割が外国人、年間稼働率80%。ITベンチャーの起業家(奥さまは日本人だとか)がオーナーだそうです。



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The Puli Hotel & Spa(上海市静安区)
http://www.thepuli.com/en/

LHWに加盟する独立系高級アーバンリゾートホテル。吹き抜けの天井、フロントデスクとバーカウンターがつながっている、30メートルはあろうかという長さのカウンターなどなど、贅沢な空間が気持ち良いです。

Jumeirah Himalayas Hotel
http://www.jumeirah.com/Hotels-and-Resorts/Reiseziele/Shanghai/Jumeirah-Himalayas-Hotel/

ジュメイラグループの営業部長さんと最近お知り合いになり、その方に格安プランを御案内いただきましたので、一宿しました。黒川紀章さんが建築したそうです。こちらも贅沢極まりない極上ホテルでした。リニアの駅が近くなので、浦東空港を使う人には便利なホテルです。

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和平飯店(Peace Hotel)
http://www.fairmont.jp/peacehotel/

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和平飯店のオールドジャズは、健在でした。スーツにネクタイ姿の中国人ジャズメンたちがスタンダードナンバーを奏でます。とても、ほほえましいです。この老舗ホテルもフェアモントというインターナショナルチェーンの傘下になっていたのですね。

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