【12.05.01】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.35)

鞄一つで世界を渡り歩く「日本人のプロフェッショナルホテルマネジャー」

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 先日、フィジーのマナアイランドリゾート&スパを取材しました。
 ポリネシアの美しい海に囲まれた小さな島すべてが一つのリゾートという、楽園を絵にかいたような素晴らしいリゾートでした。
 このリゾートホテルの田中正男総支配人は、世界のホテルを渡り歩くホテリエです。 今回、たった二日間でしたが、密着取材をさせていただきました。
 同リゾートは、昨年に過去最高売上と最高利益を出しているそうですが、田中GMのリーダーシップ、マネジメントのスタンスを見てその好調の理由が分かりました。
 その理由は、大きく分けて二つあります。

@きっちり決めてあげ、決めてあげたことに対する責任はすべてとるというスタンス
Aすべてのステークホルダー、特に部下との信頼関係をコミュニケーションによって築いている

 4月はじめ、フィジーは大洪水に見舞われました。その関係で、カンファレンスルームの建設が遅れていいました。南国ではありがちなことです。私の取材中、そのせいで、60人の結婚披露パーティをその会場でできるかどうか、難しい判断をせざるをえないということがありました。
 田中GMは、パーティを翌日に控えているにもかかわらず、工事が続けられている会場に行きました。そして、自分の目で確かめたうえで関係スタッフを招集しました。
 円卓を囲んで開口一番、こう言いました。「明日はやりましょう」。
 そして各担当者に指示を出し始めました。
 翌日の夜、私と共に島を離れざるを得なかった田中GMの携帯に、フィジアンである副総支配人から電話がありました。
「結婚パーティ、大成功でした。みなさん大変喜んでくれました!」
 判断をしたら後は現場に任せる。ホウレンソウはきっちりやる。もし問題が起こったらトップがきちんと責任を取ってあげればいい。そんなスタンスを感じました。


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 田中GMと施設内を歩いて感心させられることがありました。田中GMは、出会うスタッフ全員に必ず自分から声を掛けるのです。そして、プライベートな話題を話します。「お母さんの具合はどう?」とか、「お姉さん、いつ来るの?」とか、そういった個人的な話です。それはまるで家族のなかのお父さんのような感じです。聞くと、田中GMは300人ほどいるスタッフを全員知っているそうです。
 また、ときにGMは、わざと羽目をはずしてふざけて笑いをとります(怒るときはデスクをたたいて怒鳴るそうですが)。スタッフと田中GMの話をすると、みなさんニヤニヤしながら楽しそうに話しだします。これは愛されている証拠です。田中GMと面談をして、「この人のところだったら間違いない」と感じてはるばる日本から転職してくるスタッフもいます。

 中谷彰宏さんが、「リーダーとは、イエス・ノーをはっきり言える人。決断をペンディングにしない人」と言っていましたが、まさに田中GMはそういう人でした。
 宿屋大学で講義をしてくれているテイラー雅子教授(コーネル大学ホテル経営学部博士号、現・大阪学院大学教授)が使うリーダーとマネジャーの仕事についての話を私は気にいっているのですが、それはこういう話です。
 あるグループが山の中で遭難しました。その時、リーダーは木に登ります。高い木に登って遠くを見渡し、こう言うのです。「われわれの目指す方向は、あっちだ!」。一方のマネジャーは、木に登りません。地上に残って「あなたは食料を探してきてください。あなたは、火をおこしてください。あなたはテントを組み立ててください」というように、指示を出すのです。
 このように、リーダーとマネジャーは、役割りが違いますが、同じ人がその両方の役割りを兼ねることも当然必要なのです。


毎朝8時から行われるGM主催のモーニングブリーfヒング

       毎朝8時から行われるGM主催のモーニングブリーフィング


 私は、マナアイランドで田中GMのホテルマネジメントを見ていたとき、テイラー教授のこと話を思い出していました。田中GMはまさに、この役割りを理解し、きちんとまっとうしていたのです。
 ただし、こうした役割りをまっとうするには、オーナーとの信頼関係がないとでません。オーナーとGMとの間で、責任と権限を明確にしておかないと、決断は下せないし、責任もとれません。マナアイランドの場合、オーナーがホテルビジネスをよく理解されているのだと思います。
 多くの日本企業ではここが明確化されていないがために、その下のすべての階層で同じことが連鎖反応のように起こっています。それがビジネスの甘さになり、決断の遅さになっているのです。

 8年ほど前に、私はホテレスの取材でコーネル大学を訪れました。そのとき初めてお会いした原忠之先生(コーネル大学ホテル経営学部博士号、現・セントラルフロリダ大学准教授)が話してくれたメッセージは「日本人でも、鞄一つで世界を渡り歩くプロフェッショナルホテルマネジャーがたくさん誕生するといいですね」ということでした。それ以来、宿屋大学のミッションはこれになりました。
 今回取材した田中GMは、まさにこのような人でした。田中GMのようなホテリエがもっともっと増えることを切に願っています。

 詳しいレポートと、施設の写真などは、ホテレスとホテフリで紹介しますので、ぜひご覧になってください。




追伸 リーダーシップとマネジメントのことを深く学びたい人にお薦めの本があります。
   『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えている たったひとつのこと』
    マーカス バッキンガム (著) 定価:1,995円、日本経済新聞社

    http://recomenbooks.blogspot.jp/2011/06/blog-post_3038.html

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