【12.04.01】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.33)

“ホスピタリティ”の誤解が日本のホテル業界の悲劇を生んでいる

                       写真はイメージです

「ホテルもビジネスだから、利益を残していかないといけない」
 これは、このブログでも何度となく申し上げていることです(当たり前ですが)。仕事でおカネをもらっているプロは、全員(たとえ経営者ではなくても)、利益を残すことで評価されるべきであり、利益を残さなければ、なにを訴えてもお話しにならないと、個人的には思います。サービスの現場の人も、「私たちの仕事は目の前のお客さんをハッピーにすることで、利益を残していく仕組みは経営者が考えること」というスタンスも、甘いのではないでしょうか。経営者がこれを言うのならまだ分かりますが、お給料をもらっている人がこういうことを言うのはビジネスマンとして甘いです。仕事の目的は価値創造・価値提供ですが、ビジネスの目的は、その価値をお金に換えることです。お客さんをハッピーにしてそれをお金に変える(利益を残す)ことを真剣に考え、組織全体で利益を残す意識と仕組みづくりが必要です。

 ここで、いつも議論になるテーマがあります。「利益重視と顧客満足重視は反比例するのではないか」という疑問です。お客さまを喜ばそうとするとコストも手間暇もかかり過ぎて利益は薄くなるという反比例論です。

 今回は、かなり長くなることを承知で、「ホスピタリティをビジネスで活用する」ことを考えてみたいと思います。

 下記は、私のメンター(勝手に思っているだけですが)であるセントラルフロリダ大学の原忠之先生からいただいたメッセージです。フェイスブックの私のページに書き込まれたものです。ちょっと要約してご紹介します。
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 あまりに多くの日本人の方々がHospitalityという英単語を安易に日本語の「おもてなし」のかわりに代用して使っています。Hospitalityには(1)「おもてなし」の意味もありますが、英語言語国では(2)「直接に顧客と接して有形無形のサービスを供与する事で対価を得るビジネス」という意味合いが強い。それはHospitality Management, Hospitality Industry と言った際に、(1)の意味で訳すと極めて的が外れることで、皆様にも理解して頂けるでしょう。日本ではデータ解析も立証も無しに「おもてなし」の効用が極端に精神論で強調され過ぎています。「おもてなし」を逆に英訳すると”hospitableness”となります。そこには「裕福なホストがゲストを無償で優雅にもてなす」という、商業ベースに乗らない「茶の湯」のような世界に行き着いてしまいます。
過去30年程度で壮絶なグローバル化を仕掛けて、世界のホテル産業を席巻するようになった米国ホテルチェーンとホテル産業も、90年代頃の生産性や収益率は今の日本のように100の売上があったら当期損益ゼロかせいぜい一桁(3〜5程度=売上利益率3〜5%程度)の税引前利益率のような状況だったのです。ところが過去20年間程度の自己変革で生産性が挙がり、現在は売上利益率が平均で20〜25%となっています。一方、日本のホテルは生産性向上を実現しなかったため、「収益が上がらない=新規投資を魅了できない=給与水準も上がらない=優秀な人材を惹き付け、維持出来ない」という状況に見えます。
 日本を外から見ていると、「おもてなし」、あるいは怪しげなカタカナの「ホスピタリティ」というのが、世界の”Hospitality Management”コンセプトから乖離し、現状維持で変革を拒む人達の人質になって、現状の非効率性・非科学性の維持を正当化するために用いられるキーワードのように見えます。
 顧客にとっては「最寄駅からの利便性」、「正確なチェックイン・アウト」「インターネット接続」、「価格」、「無料朝食付きか」、「自分の嗜好の部屋の有無」等、満足度や再来訪意図に影響力のありそうな要素は数多く存在しますが、本当に顧客が「おもてなし」(=カタカナの「ホスピタリティ」)を最も重視しているのか、きちんと、世界標準、理系の世界では当たり前の多変量解析や因子分析をして統計的に立証出来るまでは、怪しげなカタカナの「ホスピタリティ」という仮面を被った「おもてなし」という、供給者側の一方的な思い込みの呪縛で、変革を拒むのは止めた方が良いと思います。 
 日本は従業員レベルの「おもてなし」はわたくしも世界最強だと思います。それは社会人になって、また学校で訓練されるものではなく、日本という社会の源である幼児・初等教育時期からのご家庭の教育文化がしっかりしているからに見えます。スキルは大学や専門学校で教えられますが、態度を教育するのは困難です。ではなぜ「(1)おもてなし」では劣る米国ビジネスが世界のホテルやサービス市場を席巻してしまっているのか、それは(2)のビジネスモデルが強力だからです。売上利益率2割強も出れば、いい給与払えて人材確保、設備投資も出来ます。 手遅れになる前に、日本の皆様にぜひ真剣に、世界ではどうなっているのかを考えて頂きたいと思います。

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 では、真の意味の「ホスピタリティ」は、どうビジネスに効くのか。これを考えてみたいと思います。
 成熟社会におけるビジネスには、難問が二つあります。
 一つは、顧客満足と利益には、直接的な相関がないという問題です。顧客満足を利益につなげるためには、顧客満足で満足せずに顧客ロイヤルティにしていかないといけない。つまり、ファンになってもらってリピートや口コミをしてもらうこのができて初めて利益につながるのです。
 二つ目は、競争戦略でいうところ「差別化」の問題です。お客さんに商品やサービスを選んでもらうためには、選んでもらうための理由が必要です。その理由、意味が、競合他社との差別化要素です。ただし、その差別化要素は、価値があればある程すぐに真似されてしまいます(例 ファブリーズはすぐにリセッシュに真似されましたね)。コモディティ化の問題です。
で、最近私がよく考えるのは、この二つの難問は、ホスピタリティという概念が解決してくれるのかもしれないということです。
 顧客満足を顧客ロイヤルティにするのもホスピタリティですし、コモディティ商品を、オンリーワン商品にするものホスピタリティなのではないでしょうか。
『全脳思考』(神田昌典 著、ダイヤモンド社刊)に、「ヒット商品というのは、比較検索ではなく、指名検索されていることが共通点」という話があります。東京マラソンやキッザニアを選ぶ人は、マラソン大会というキーワードやテーマパークというキーワードではなく、そのものズバリの東京マラソンやキッザニアというワードで検索しているのです。
 例えば、私どもの宿屋大学も、「ホテルマネジメントスクール」ではなく、「宿屋大学」で検索される存在であるべきです。ホテルマネジメントを勉強したいのではなく、宿屋大学に参加していることに本質的な顧客価値があると感じてもらう存在を目指すべきなのです。
それを実現するカギが、「ホスピタリティ」なのです。

 私が意味するホスピタリティは、サービスという言葉の対局を意味します。サービスが画一的、マニュアル重視の行為であるのに対し、ホスピタリティは、そのお客さまの都合を第一に考えて提供するものを変幻自在に変える行為です。サービスはどちらかというと提供サイドの都合で量産しますが、ホスピタリティはその人のためだけの行為です。
 こうした行為をお客さまに提供し、心と心で繋がることができたとしたら、それは顧客ロイヤルティにつながるし、真似されないオンリーワンの差別化要因になるのです。
 これが分かれば、ホスピタリティをビジネスに効かせる方法を理解することができると信じます。


追伸 下記はホスピタリティの概念が、すっきり理解できる講座です。
   おススメです。

●4月23日 (月)講師:石丸雄嗣氏
   【宿屋塾】ホスピタリティ・ロジック 〜おもてなしの罠 [再演!]
      http://yadoyadaigaku.com/program/JK1209.html

●5月12・26日 (土)講師:石丸雄嗣氏
     【基礎講座】「ホスピタリティ・ロジック・マスター講座
            〜"顧客配慮"を経営資源にするために」(2日間)」
      http://www.yadoyadaigaku.com/program/BS1202.html

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