【12.03.05】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.31)

二人のアシスタントマネジャー

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(写真はイメージ)

 半年間のホテル実習も慣れてきたある日、A子さんは大失敗を犯してしまった。都内の高級ホテルのコーヒーショップのランチサービスで、お客さまに水をかけてしまったのだった。寒い日だったし、かなりの量だったのでとても冷たかったに違いない。声には出さなかったまでも、そのご婦人のお客さまはあからさまに嫌悪の表情を見せた。A子さんが、すぐにきれいなナプキンで水を拭き、必死に「申し訳ございません」と謝るも、一向に機嫌を直してくれなかった。しまいには、「もういい! あっちいって!!」というしぐさを見せた。
 A子さんは、落ち込んだ。怒らせてしまったお客さまが恐くてしょうがなかった。できることならそのテーブルには近づきたくなかった。
 その一部始終を見ていたアシスタントマネジャーのD氏は、A子さんに近づいてこう言った。
「A子さん、あのテーブル、君に任せたよ。あのご婦人たちのフォローをしっかりやって、最後には笑顔でお帰りいただこう」
 そうやって、背中を押されたので、A子さんはやるしかなかった。恐い感情を押し殺し、下げモノをして、食後の飲み物のオーダーをとった。必死に笑顔を作って接客をした。お会計をして立ち去ろうとしたご婦人に「ありがとうございました」と頭を下げたとき、ご婦人は「ありがとう」とニッコリしてくれた。A子さんは、その笑顔に救われた。
 すると、いつの間にか後ろに立っていたD氏がA子さんの肩をぽんと叩いてこう言った。
「やったじゃん、ご苦労さま!」
 この出来事で少しだけ成長したA子さんは、ホテルの仕事が好きになれたし、このDというアシスタントマネジャーには、どんなことがあっても従うし、ついていきたいと思ったのだった。

 昨年の夏、あるアーバンリゾートホテルで研修を受けていたB子さんは、大きな修羅場経験をした。ちょうどお盆の時期で、毎日が忙しく、研修生も社員もタイトなシフトが続いて疲労が溜まってきているころのことだった。
 朝食サービスのとき、B子さんはミスをしてしまい、アシスタントマネジャーのCさんに怒られた。100%B子さんのケアレスミスだったので、反省し「申し訳けございませんでした」と何度も謝ったが、Cさんの機嫌は直らず、「もういいから、あっちの宴会場、掃除機かけて」と指示をした。Cさんは、ミスをしたスタッフは表に出さずに、裏の仕事をさせるのが常。普段は穏やかな人だが、忙しい日が続くと分かりやすいほど機嫌が悪くなりイライラを周りにぶつけるタイプで、その八つ当たりを、そのレストランの誰もが避けるように仕事をしていた。
 B子さんは指示通り掃除機をかけた。するとCさんがやってきてこう言った。
「B子、さっきのミス、あれはなんだ!」
 B子さんは、心の中で「まだ言うの?」と思いながら説教が終わるのを待った。しかし、「おまえ、最近たるんでるよな」という一言で、心の中で何かがプッツンと切れてしまった。
「たしかに、さきほどのミスは私の不注意ですし、反省しています。でも、決してたるんでいるわけではありません。毎日一生懸命頑張っています!」
 こう反論してしまった。数分、口論したが、最後には「勝手にしろ!」という捨て台詞を言ってCさんは部屋を去っていった。

 上記二つの話は、実話に基づく話です。
 日本のホテル業界に、D氏のような「厳しいけれど、愛情あふれる」マネジャーがたくさん生まれ、Cさんのような部下を怒ることを感情のはけ口にしてしまうようなマネジャーが撲滅されることを切望します。

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