【11.09.26】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.20)

独立系ホテルのマーケティング戦略考

     女性をターゲットにして差別化に成功している「サクラ・フルール青山」


 14話「ビジネスホテルはビニール傘?!」で、「コモディティ商品化しやすい宿泊主体型ホテルという業態は、どうしたらビジネスを続けていくことができるのだろうか」という考察をしました。このたび、その考察をさらに進めて『HOTERES』(9月16日発売号)の特集でレポートしました)。
 タイトルは、「独立系宿泊主体型ホテルの生き残り戦略 〜 差別化とネットワーク化の考察」。米国の事例、ネットワーク化を図るホテル企業やポイントカード会社の取材、独立系宿泊主体型ホテルの成功例、識者の寄稿などで構成しました。
 ここでは、その特集のエッセンスを紹介します。

 今回、特集を担当して、おぼろげながら見えてきたことが二つあります。

@ホテルのチェーン比率は、米国では7割くらいになっている。日本でもチェーン比率は今後も高まるが、米国ほどにはいかず、おそらく5割くらいになっていき、独立系は半分くらい生き残るだろう

A独立系宿泊主体型ホテルの生き残る道は残されている

 独立系宿泊主体型ホテルがとるべき戦略は二つです。
 「ネットワーク化」と「差別化」です。ネットワーク化とは、大手チェーンに属さなくても、ポイントカード会社のネットワークに入り、そのスケールメリットを享受する方法です。集客や経費節減で効果が高いです。
 
 差別化にも二つの方向性があることを紹介しました。
 ビジネスはすべからく「誰(ターゲット)」に「何(商品・サービス)」を提供するかですから、「ターゲットの差別化」、「商品やサービスの差別化」の二つが考えられます(「どのように」の差別化もあるでしょうが、今回は触れておりません)。


 上の図をご覧ください。
 既存の商品を既存のマーケットに売り続けるAのフィールドは、当然ながら堅持すべきところでしょう。しかし、ここだけに力点を集中させたらビジネスは広がりません。そこで新たなフィールドを探すのです。

 Bのフィールドは、「商品はあまり変えずに、新しいコアターゲットを定めていく」戦略です。インバウンドマーケットや女性マーケットといったセグメント、地域のコミュニティなどをコアターゲットにする例です。
 女性をターゲットにして差別化に成功している「サクラ・フルール青山」の小林オーナーのインタビュー記事は、ホテルマネジメントについての多くの示唆と、大きな勇気を与えてくれる素晴らしい内容ですので、ぜひこれだけでも読んでみてください。
 
 続いてCのフィールドは「既存のコアターゲットに、新しい価値の訴求をしていく」戦略です。文化や歴史といったローカルの魅力、地域に溶け込んだ温かい人間味などを前面に押し出す方法です。

 どちらにしても、競合がまねできないことで、自身の強みを生かせるものはなにかを考え、「ここならどこにも負けない」というフィールドを持つことが肝心なのです。

 ただし、差別化が成功すると競合に真似されます。眠りに特化しても、朝食に特化しても、大浴場をつくっても、どれもすぐに真似されてしまい、差別化が一般化になってしまうのです。ビジネスとはそういうものです。

 では、どうしたらいいのでしょうか。それは、フィールドを決めたら、そこに徹底的に力を集中させてナンバーワンになることです。他の追随を許さないポジションを築くのです。そして、競合が参入しようとしたら、かえって競合が自滅してしまうくらいの地位を築く。ベネッセにしても、アスクルにしても、いつも行列ができている長瀞のかき氷店「阿左美冷蔵」にしても、「○○なら▲▲」という代名詞になるくらいの存在になることです。
 
 そのためには、打ち手は単発ではだめであって、いくつもの施策や仕掛けを打ち、そのすべてを一貫させ、かつリンクさせていくのです。一つのストーリーのように。
 真似されない、真似できない独自のストーリーをつくることこそ、差別化が一般化されていく連鎖を断ち切る唯一の手段でしょう(『ストーリーとしての競争戦略』東洋経済新報社をご参照ください)。

『ストーリーとしての競争戦略』


















ページトップ