【11.07.18】「ホテルマネジメント雑学ノート」≪Vol.15≫

なぜ日本はホテリエ育成ができないのか

宿屋大学には、ホテルマネジメントの専門知識やスキルを体得したいと思っているホテル業界人が多数募っている



「日本のホテル業界は、本当に人材不足です。マネジメントレベルに人がいなさすぎます。ヤバいですよ」
 先日、海外のホテルでマネジャーをやっていて、つい先日帰国した友人から、こんなことを言われた。欧米、そしてアジアのホテル業界を知り、複数のホテルマネジメント会社で身を置いた経験を持つ彼の言葉は、かねてからそこを危惧していた私に重くのしかかりました。
 いったい、なぜ先進国である日本において、ホテルマネジメントだけ世界から劣後してしまっているのでしょうか。ホテルマネジャーの育成の遅れは誰の責任なのでしょうか。どうしたら優れたプロフェッショナルホテルマネジャーがたくさんいる国になることができるのでしょうか?(優れたホテルマネジャーの私の定義はhttp://www.yadoyadaigaku.com/about/index.html

 問題の原因は複数あると思います。いくつか列挙してみますと・・・。

@「上質な運営とサービスを提供してくれれば、利益はあまり出さないでいい」と言われていた時代が長かった

A当事者である運営者も、いまだに「ビジネス」よりも「顧客満足」や職人的で上質なサービスを指向している

Bオーナーと運営者の間の「責任と権限」が不明確。もしくは、明確化されていても実際には曖昧(その原因は、運営者の実力不足、オーナーの認識不足の二つがある)

Cホテルの専門学校も、観光ホスピタリティ系の大学も、実践的ホテルマネジメントを教えない。企業内研修においても極めて限られている。つまり、どこもホテルマネジャー育成という役割を担っていない(「宿屋大学」や「ホテル産業経営塾」は、そこを担っていますが・・・)

 欧米では、マネジメントとラインスタッフの職責や待遇は明確に異なっています。ホテル運営会社に属した約2割のマネジメント社員が、8割のサービススタッフ(ローカルスタッフ)をマネジメントするというスタイルです。ローカルスタッフが頑張ってマネジメントを勉強して本部スタッフになることもありますが、基本的にはきっちり分かれています。ですので、ホテル運営のプロフェッショナルマネジャーを目指す人は、大学でそれを学び、マネジメント要員として採用されてその職に就いていきます。
 一方の日本はどうかというと、みんな一斉に採用し、ベルパーソンやウエイター・ウエイトレスからスタートし、ゆっくり出世階段を上がっていき、50代でやっと部長や総支配人になるというイメージです。または、マネジメント層は、オーナー会社や親会社からの出向組が担当します。

 星野リゾートのような「ホテル運営専門会社」がもっとできてこないと成熟していかないでしょう。既存のホテル運営会社においては、「ファストトラック(マネジメント養成コース)」を整備して、ホテルマネジメントのプロフェッショナルを育成する仕組み作りをすべきです。日本における現状は、「やっぱり、ホテルマネジメントってのは、餅は餅屋で、プロに任せないとだめですねえ」という認識はないし、一部の優良運営企業を除き、それを証明するだけの実力に欠けています。

 私は、10数年前から「ホテリエ」という言葉を「ソムリエ」同様、憧れの職種として考えてもらうために、プロフェッショナルホテルマネジャー(PHM)という意味で使っていますが、日本における日本人らしい成熟したホテル業界を存続させていくためには、このホテリエ、PHMの存在意義を認識し、ホテル運営企業も、ホテルオーナーも、運営者自身も、学校も、育成に力を入れていくべきでしょう。

 ホテリエの実力向上こそ、この業界の発展の鍵なのです。




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