【11.03.29】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.7)

社会的使命とビジネスの両立

        地震に耐えきれずに半壊した仙台市内の居酒屋
 
 東日本巨大地震によって、ある日突然、過酷な現実を押し付けられた被災者に、被災者ではない者ができることとは何か。ホテル業界の仲間のために、どうすれば力になれるのか。それを知りたくて、3月20・21日に、たった二日間ではありますが、仙台市内のホテルを取材しました。巨大地震に際し、ホテルはどう行動したか、何を感じ、何が足りないのかなどを取材して、彼らの代弁者になってお伝えしようと考えました。
 前回のこの連載メールマガジンで、「ホテルは公器」というテーマをお伝えしましたが、被災地の多くのホテルでは公器としての役割を果たし、お客さまや被災者の安全を確保する対応をされていました。詳細は4月15日号『HOTERES』に掲載します。
 ここでは、「社会的使命とビジネスの両立」という問題にフォーカスしたいと思います。大資本に支えられたホテルにおいては、それほど大きな問題にはならないのですが、小資本で蓄えもない小さなホテルや旅館には、共通したジレンマがありました。
 それは、「一時的にシェルターとなって、無償で客室や食事を提供することはできるが、長期となると難しい」という問題です。東北における、ほとんどのホテルや旅館は、過当競争のなか、ギリギリで経営をしてきたはずです。毎月の返済もあるし、社員への給与支払いもある。無償で被災者を泊めてもこれらのコストは一定額出ていきます。経営が一気に成り立たなくなるのです。「困っている人たちを助けたい気持ちは大いにあるが、自分たちも倒産して路頭に迷ってしまう」というジレンマです。
 私が被災地で取材したホテルの対応や、オータパブリケイションズが調べたレポートによると、ホテルのとった対応は、大きく分けて次の7つに分かれます。

1 閉館
2 お客さまや被災者に無償でホテルを開放。営業は停止
3 数日間、安全と食事を提供し、その後に公的避難所に誘導。営業は停止
4 営業は停止しているが、公的機関の救援隊や、インフラ復旧要員の宿舎として有料で提供
5 シャワーや朝食サービスはないが、それでもよければ割引料金で提供する
6 タオルやシーツ交換はないけれど、それでもよければ宿泊できる(通常料金)
7 「被害、損害を被っても自己責任」という署名をした人だけ宿泊可

 これらの経営判断について、私がとやかく意見を述べるつもりはありません。こうした非常事態、窮地に陥った時こそ、難しい判断を強いられ、ビジネスマンとして、人間としての真価が問われ、価値観や哲学、精神力が問われるということを痛感し、慎重に行動すべき時であることを申し上げたいのです。
 7の判断をしたホテルは、ブランドイメージを損ねたでしょう。2の判断をしたホテルは、短期的には厳しい経営を強いられ、倒産に追い込まれるかもしれないが、乗り切った暁には、世間から感謝されます。長期的に見たらビジネスにとってもプラスになるはずです。
 今こそ、正念場です。世間はとてもセンシティブで感情的になっています。企業サイドの一挙手一投足を見守り、社会的価値のある行動は高く評価され、私利私欲的な行動は、評価を著しく下げることになります。
 ただし、被災地には、家族も財産も、仕事も失った被災者がたくさんいます。彼らのことを考えたら、私たちの試練なんて、屁の河童ではないでしょうか。
 2000万ドル分の原油支援を決めたサウジアラビア国営石油会社のアルファレCEOのコメントが日経新聞に掲載されていました。
「真の友人は、相手が窮地に立っているときにこそ手を差し伸べる」
 この心意気で、いきましょう!


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