【11.02.26】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.5)

“お客様は神様です”の勘違いが、日本を駄目にする



 日本のホテル業界、サービス業界を向上させるためには、二つの問題に取り組む必要があると思っている。
 一つは、労働生産性と利益率の向上である。そして、もうひとつは日本人が無意識に持っている「お金を払う人が上で、サービス提供者が下」という意識である。「金を払っているんだから、こっちが偉いんだぞ」といったスタンスである。
 前者の改善取り組みは、業界内の問題であり、業界人への訴求をすればいいので何とかなるが、後者の改善取り組みについては、日本人全体の意識改革であるから、どのように取り組めばいいか長年頭を悩ませている。
 みなさんも、携帯で話しながらレジでお金を払ったり、チェックインしたりする失礼な行動をされた経験はないだろうか。サービス担当者はとても不快な思いをするし、モチベーションも下がる。
 本来、サービス提供者と受け手は、対等関係である。ビジネスはすべからく、サービスという価値を提供し、それと等しい対価をお金で支払う等価交換である。等価交換して双方がハッピーになるために行なう行為である。つまり、ハッピーを共有するパートナーである。少なくとも私は、オータパブリケイションズ時代も、宿屋大学を運営するいまもそのスタンスでやっている。
 この、欧米では当たり前の価値観を日本人も共有しなければサービス産業の発展はあり得ない。オータパブリケイションズに在籍していたときに、奥谷啓介氏に執筆いただいた『サービス発展途上国日本―“お客様は神様です”の勘違いが、日本を駄目にする』などはその運動の一つである。 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4903721183
 それでも、本を一冊出版したくらいでは長年引きずっている意識というのは変わるわけはなく、日本人の多くは依然サービスパーソンに対して横柄である。

 ところが、先日、私の前にこれを命をかけてやっている人が現れた。
 鴨頭嘉人さんである。サービスパーソンが元気になれば世界が元気になると信じ、素晴らしいサービスをしているサービスパーソンを承認する活動(「ハッピーマイレージカード」を差し上げる)を広めようとしている。ビジネスそっちのけで、天命として続けている。
 先日こんなことがあったそうだ。まったくサービス精神のない居酒屋で、まったく笑顔を見せないアルバイトの女性が働いていた。鴨頭さんがちょっと話しかけると、「クスリ」とはにかんだ。その瞬間、例のハッピーマイレージカードを差し出しつつ「君のその笑顔、最高です!」と伝えた。その晩、彼女からメールが届き、そこにはこんなことが書いてあったという。「今日、鴨頭さんに生まれて初めて『笑顔がいいね』と言われましたが、その後、不思議なことに同じことを5人の人から言われました。今まではつらいばかりだったサービスという仕事が楽しくなりました」
 おそらく、鴨頭さんが幸せにした彼女は、その日たくさんの人を幸せにしたのだろう。
 つまり、サービスパーソンを幸せにすれば倍々ゲームのごとく、世界は幸せに変化していく。この運動が広まれば日本は、世界は間違いなく幸せに包まれることだろう。
 お客様は神様じゃない、お客様は幸せを共有するパートナーである。パートナーを幸福にすることで自分も幸福になる。こんな価値観を共有する日本になってほしい。

★鴨頭嘉人さんの宿屋塾
「社会人として大切な事はみんなマクドナルドで教わった
      〜世界一優れたホスピタリティ企業の秘密とサービス業の素晴らしさ」
 http://yadoyadaigaku.com/program/JK1110.html



ページトップ