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【11.01.31】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.3)
協働力 〜ダイバーシティを尊重する
日勝生加賀屋の朝礼。接客8大用語を日本語で唱える。スタッフはほぼ全員台湾人だ
最近、「価値観や方向性の違う二者による協働」をよく考える。
ホテルの「オーナー vs 運営者」の問題がまず挙げられる。所有者と運営者が同じホテルならともかく、多くのホテルで所有者と運営者は違う。本来この二者は、ホテルビジネスで価値や収益を創出するという同じ目的のために二人三脚すべきだが、価値観や方向性が若干違うために齟齬が生じたり、理解し合えなかったりする。これがホテル業界の大きな課題だと私は思っていて、基礎講座「ホテル運営者が知っておくべきオーナー・投資家の理論」などは、その解消のために開催している。
年末に取材した台湾の日勝生加賀屋さんは、現地オーナーと加賀屋さんとの間、そして農耕派民族である日本人と、騎馬民族出身であり個人主義の台湾人との間で大きな価値観の違いがあって、開業までに3回もプロジェクトがストップしたという(詳しくは、先週のホテレス「“おもてなし”は輸出できるのか 〜加賀屋の台湾開業に見る日本的ホスピタリティの本質」を参照ください)。
今後、グローバル社会が進み、海外の人たちと協働することが増えることは間違いない。しかし、この「価値観の違う人との協働」ということに関し、日本人はとても不得手なのではないだろうか。
集団で暮らさなければ成り立たない農耕民族であり、単一民族である日本人は、争いを避け、険悪な仲にならないために、口に出して意見や要求を発しなくても相手とコミュニケーションがとれる感性を身につけた。今風に言うと「空気を読む」技である。ところが、この「言わなくても分かる」「言わなくても分かってもらえる」というコミュニケーションは、単一民族だけに通用するものなのだ。これに慣れきっていると、きちんと自己主張しなければなにも伝わらないことに大きなフラストレーションを感じるであろう。
協働というのは、自己主張だけしても駄目だし、相手の主張を聞くばかりでも自分がやりたいことはできない。相手の立場や価値観を理解し、受け入れたうえで、自分の主張も通す。この交渉術というかバランス力、つまり協働力を備えないといけない。ダイバーシティ(多様性)を尊重することこそ協働の第一歩であると思う。
上記のホテルオーナーと運営者の問題で運営者からよく聞くことの多くは、「オーナーが運営にまで口出ししてくる」ことであるが、これも「オーナーが権限委譲してくれない」と嘆く前に、「対等関係になり、任せてくれるようになるにはどうしたらいいか」を考えるべきだろう。もしかしたら、運営者としての実力を認めてくれていないのかもしれない。
台湾の日勝生加賀屋のプロジェクトにおいて、千切れそうになりかけた糸が切れなかったのは、一重に熱意と「何としても実現させたい」という同じ目的(ゴール)を共有し、分かり合う努力をし続けたからだ。
ホスピタリティとは、相手を思いやる心である。相手の立場になって物事を考える力である。本来、この心を持っているわれわれホテル業界人は、協働が上手なはずだ。
理解しようとする姿勢、違いがあることが前提であり、違いを尊重していく生き方が、これからの時代ますます大事になってくる。