【11.01.15】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.2)

ホテルマネジメント教育のジレンマ

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        昨日訪れた立命館アジア太平洋大学(別府)のキャンパス
        ここでは、世界数十カ国から集まった学生が英語と日本語で
        学び、グローバル社会に適応した人材育成に成功している



「日本のホテル業界は、顧客満足を達成させるために社員満足と利益を犠牲にしている」
 これは、私が感じている日本のホテル業界の問題点である。
 サービス残業はなくならず、いつまでたっても利益率や労働生産性は低いまま。だから、顧客満足と社員満足、そして利益をバランスよく高めるマネジメント力が必要であり、それができる「プロフェッショナルホテルマネジャーを目指す人」を応援したい。
 これが、宿屋大学のメッセージであり、ミッションであり、目指す方向だ。
 国土交通省観光局も同様の問題を感じて、産学官連携による観光分野の人材育成の取り組みをしており、観光ホスピタリティ系の学部学科を持つ大学と連携してカリキュラムを作ったり、試験的な講義をしたりしている。

 ところが実際は、なかなかうまくいっていない。
 問題点は二つ。一つは、観光ホスピタリティ系の学部学科を持つ大学に集う学生の学力レベルが概して低いために、難解な統計分析や金融不動産系の講義などについていけない。もうひとつは、理論と実践を兼ね備えた教授や講師の数が需要に追い付いていないことである。
 よって、即戦力になるサービスマンを輩出することを使命としているホテル専門学校に似たカリキュラムになってしまったり、日本のおもてなし文化や茶道といった、「利益を創出する能力」とはおよそかけ離れた講義内容しか提供しない大学教育になってしまったりしているのだ。
 なぜかというと、この5年ほどの間にできた観光ホスピタリティ系の学部学科というのは、「産業を牽引するマネジャー、リーダーの育成」という産業ニーズに応えるためにつくられたというよりは、入学者集めを主たる目的として設立されたものが多いからだ。
 よって、日本の大学では「プロフェッショナルホテルマネジャー育成」がなされていないのだ。

 こういう話を、大学で観光ホスピタリティを教える先生たちと話すと反論が返って来る。
「『大学は産業ニーズに応える教育をしていない』というが、そもそもホテル企業が求める人材は、礼儀正しい人だとか、正しい日本語ができる人だとか、専門学校と同じなんだよね」
 この反論、おっしゃる通りなのだ。
 いくら大学が、産業を牽引する未来のリーダーを育成しようとしても、肝心のホテルの方で「素直で元気、そしてマナーをわきまえていればマネジメント教育なんていらない」というスタンスのところもまだまだ多い。それに、入社しても現場のサービススタッフとして一列に並べて採用するから、グローバルホテル企業では当たり前の「30代の総支配人」など、できない仕組みになっているのだ。
 真に実力のあるプロフェッショナルホテルマネジャーとはどういう人か。それは、セールス&マーケティングに長け、徹底的に現場主義で率先垂範し、スタッフをサポートし、お客さまをケアし、オーナーとも良好な関係を維持し続けるパワフルなホテリエである。オーナーや親会社の操り人形であり、名誉職としての総支配人として存在するだけのホテリエではない、真のリーダー的ホテリエだ。こういう「凄腕総支配人」諸氏が口をそろえて言うことは「総支配人は若くないと務まらない」ということだ。50代でやっと総支配人になれる日本のホテル企業のキャリアデザインは、遅すぎるのだ。

 このような真のリーダー的ホテリエをつくる方策はただ一つ。ファストトラックの整備である。現場でサービスを極める人とマネジメント志向の人を分けてキャリアパスを用意するのだ(そもそもこの二つはまったく違うスキルやキャラクターを必要とするものである)。
 ヒルトンや帝国ホテル、ホテルオークラ、JALホテルズなど、少ないが、日本でも先行して行なっているホテル企業があるが、まだまだマイノリティ。
「年上の人が年下の人より上位」といった上下関係を厳しくしつけられている日本社会では馴染みにくいのも分かるが、ホテル企業が率先してプロフェッショナルホテルマネジャーの育成をしない限り、世界から置いていかれる未来は目に見えている。

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               立命館アジア太平洋大学の学生たちと

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