ホテルマネジメント雑学ノート

ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.114)「ラグジュアリーホテルに不可欠なのは、「正しくホスピタリティが存在している」こと」

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自立と自律

先日、宿屋塾社内で「現場の裁量権」についての議論がありました。研修のスペシャリストI氏がファシリテーターとなって「お客さまの期待を超える」サービスチームをどうつくるかという研修プログラムの開発ミーティングのなかでの議論でした(近日公開、出来上がりましたら皆様に紹介させていただきます)が、とても興味深いので紹介したいと思います。

冒頭、I氏は人材育成には2つのステップがあるとおっしゃいました。

1st ステップは、スタッフを「自立」させる。
2nd ステップは、スタッフを「自律」させる。

「自立」は、「指示通り、きちんとできるようになる」です。これもとても大事なこと。でも、これだと指示通りのことしかできず、期待通りのサービスしか提供できず「満足」は提供できても「感動」「感謝」は創れない。そこで、スタッフの「自律」が必要。自律したスタッフは、自ら考え、お客さまに言われなくても先回りして動ける。お客さまの状態を観察し、気持ちを察して動くことができる。これが「お客さまの期待」や「満足」を超えた「感動」「感謝」に変わっていく。この「感動」を提供して「大変満足」を創っていくことでお客さまはファンやひいき客になっていく。こうしたファン客を積み重ねていく。これがサービス業のセオリー(勝ち方)のひとつですと宿屋塾では伝えています。

「ラフ」の考え方

もうひとつ、ポイントがあります。それは、「自律したスタッフにどれだけの裁量権を与えるか」ということ。この裁量権を、I氏は比喩として「ラフ」とおっしゃいました。正確には、「どんなに自由な組織でもフェアウェイは明示しないとですよね」とおっしゃいました。ゴルフのたとえです。つまり、

「フェアウェイ」=マニュアル、絶対に守ってほしい最低限のルール
「OB」=やってはいけないこと
そして、「ラフ」は、マニュアルからは外れているけれど、やってもOKなことです。

私が思ったのは、この「ラフ」の広さが、それぞれの企業の考え方なのだということです。マニュアル至上主義のホテルの「ラフ」は、限りなく狭い。一方、ホテルグリーンコアのように基本、スタッフの自主性自発性に任せているホテルの「ラフ」は、とても広い。私は、ゴルフが不得手でフェアウェイキープ率が極めて低いです。ラフが狭いとすぐにOBをたたいてしまう。ラフが広いゴルフ場のほうが楽しめます。

サービス業も同様で、現場の裁量権というラフが広いサービス企業のほうが、お客としても、スタッフとしても楽しい。ただし、ラフ(余白)とOBの境界線は言語化しづらいところなので、企業文化、風土、暗黙知として、「ここまでだったらやっても大丈夫」ということを肌感覚で共有していくことが重要なのだと思います。

 

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ホスピタリティ復権の時代到来

ポストコロナに続々と誕生する超高単価ホテルを観るに、ハードの競争は行きつくところまで行ってしまった感があります。それに、建設コストが高騰しているがゆえにハードの魅力向上は採算が合わなくなってきています。では、宿泊単価アップはどうやって図ればよいのでしょうか。私は、上記のような自律したスタッフによる余白の活用、つまりホスピタリティを発揮してファンやひいき客をつくっていくことで実現していく方向性が有効だと思っています。20年くらい前まで、日本のホテルは、サービス職人を重んじていたし、みなさん、自身のホスピタリティ力を競っていました。しかし、いまでは生産性や効率化ばかりが注目される。今後のホテルは、ハードや仕組みよりも、ヒトのハートによるホスピタリティで差別化をしていく時代が復権される、と希望的観測も込めて感じております。

「フェアウェイ」の考え方

こんなことを考えながら、大型連休に突入。私も、プライベートで某ラグジュアリーホテルに泊まってみました。その滞在をしながらあることに気付きました。それは、「ラグジュアリーホテルは、フェアウェイが広い」ということです。ラフの広さも大事ですが、そもそもフェアウェイ(スタンダードで「やってよいこと」の幅)がとても広いと実感しました。

ホテルに到着するとラウンジまで導かれ、ソファに座ってウェルカムドリンクをいただきながらチェックイン手続き。チェックイン手続きが終わると、「食事はどうされますか?」と訊かれました。「外に〇〇という名物を食べに行こうと思っています」と伝えると、「でしたらAやBという店がお勧めです」と教えてくれて、予約もしてくれる。夕食を済ませて帰ってくると、「いかがでしたか?」と訊いてくれる。このパーソナルタッチのコミュニケーションが実に嬉しいのです。

私は、このホテルで素晴らしいホテルステイを心から堪能することができました。そして、この滞在を通して、20年くらい前までの日本の、いわゆる高級ホテルに必ずあったサービスがこのホテルには残されていることに気付きました。否、「日本のほとんどの高級ホテルに以前は当たり前のように存在したサービスの多くが今は多くの高級ホテルで省かれてしまっている」ことに気付いたのです。例えば、上記のようなウェルカムドリンク、ベルスタッフによる客室へのアテンド、バレーパーキング、コンシェルジュサービス、ターンダウンサービス、深夜まで営業しているシグニチャーBar、朝食のアラカルトメニュー、朝刊の客室への配達などなど。これらをリストアップしていったらまた気付きました。省かれたサービスのほとんどが人的サービスによるものなのです。

日本のホテルを利用する富裕層の割合が増しています。そんな時代には、上っ面だけラグジュアリーなホテルは評価されないでしょう。プロフェッショナルな矜持を胸にゲストに寄り添ったホスピタリティを提供してくれるサービスパーソンをしっかり抱え、広いフェアウェイと広いラフを用意したホテルこそ、真のラグジュアリーホテルとして評価されていく。競争すべきは、やはりヒト、そして正しいホスピタリティを磨いていくことなのだと、私は思います。

 

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