ホテルマネジメント雑学ノート

ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.112)「ホテル運営者の給与が安い本当の理由」

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コロナ禍で働く人が減ってしまい現場のオペレーションの態勢が不完全なまま、宿泊需要が急速に回復し、現在、ホテルの人手不足問題は喫緊の課題になっています。この人材不足の原因の一つに「薄給」があります。ホテルで働く人の給料や待遇が他業界に比べてよくないから人が集まらない、人が辞めてしまうという問題です。

みなさんは、「ホテルの給与がなぜ薄給なのか」を考えたことはありますか。今回のブログでは、「宿泊というビジネスモデル」と「サービスオペレーションが生み出す価値」という二つにフォーカスして、「ホテルの薄給問題」を考察してみたいと思います。

宿泊というビジネスモデル

安定的に儲けやすいビジネスを考えると、その状態とは、「供給(売り手)と需要(買い手)の量が常にバランスしている状態」だと思います。無駄なく漏れなくムラなく価値交換が繰り返される状態です(それを追求して具現化したビジネスモデルが「サブスク」ですね)。しかし、ホテルは、キャパシティ(供給量)は一定なのに、利用者(需要)は一定ではありません。むしろ、変動幅(ボラティリティ)がものすごく広い。また、装置産業であるがゆえに初期投資も莫大ですし、労働集約型産業なのでランニングコストもかかる。儲けやすいビジネスを考えたら、元手も少なく(BSが軽い)、ランニングコストもあまりかからないビジネス、ITやコンサルのような知的集約型というのでしょうか、そんなビジネスモデルが儲けやすいと思っています。さまざまな商売のビジネス構造を俯瞰して比較すると、宿泊業は比較的難しいビジネスなのだと感じます。

ホテルも不動産業の一つですが、同じ不動産ビジネスと比較しても難しいと感じます。例えばワンルームマンションなどは、部屋が居住者で埋まれば、あとは黙っていても一定額の家賃収入が得られます。しかもオペレーションは、ほぼ不要です。ホテルは毎日客室を売らなければならないし、お泊りいただくお客さまのためにスタッフを雇い、接客オペレーションを施さなければならない。つまり、手間暇コストがかかるのです。

こうしたビジネスとしての難しさを乗り越える知恵や取り組みが必要です。レベニューマネジメントやCRM、所有と運営の分離という取り組みは、キャパシティビジネスの難しさを乗り越えるチャレンジだと言えます。魅力ある体験価値を提供して利用者の単価を高めたり、DXなどによる業務の効率化でオペレーションコストを圧縮したりする取り組みは、労働集約型ビジネスのメリットを生かしたり、デメリットを抑えたりする工夫だと言えます。

論点が少しずれましたが、利益額や利益率が高まれば、給料を上げることが可能です。宿泊ビジネスの本質を掘り下げて、もっと儲かるビジネスにしていくべきですが、まだまだその研究や取り組みが道半ばなのだと思います。

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人件費が圧縮されるロジック

先日、ある不動産デベロッパーによるリゾートホテルを訪問しました。そこで、ちょっと切ない思いをしました。そのホテルは、親会社である不動産会社が開発し所有し経営しており、運営はホテル子会社が行なっていますが、その所有・経営会社の社員と、ホテル運営子会社の社員の給与額の差が非常に大きいそうなのです。運営会社の社員がその差額を聞いたらみんなモチベーションを下げてしまうだろうというくらいの開きがあるそうです。

私は、それを聞いて考え込んでしまいました。なぜ同じ一つのビジネスをやっている社員なのに、そこまで待遇が違うのか。親会社と子会社の待遇格差はどこの業界にもある問題ですが、宿泊業界においては、いま最も貴重な経営資源は人的資源ですし、人が価値を創るし、人こそが商品なのに、なぜ待遇が改善されず薄給のままなのか・・・。

上記の例のように、不動産デベロッパーが開発して経営しているホテルの場合、そのビジネス感覚は、理解できるのです。マンションやオフィスビル、ショッピングモールといった不動産開発を主にしてきたデベロッパーでしたら、ホテルビジネスに発生する「オペレーション」というところが「コスト」にしか見えないのだと思うからです。「ハード(建物)」という目に見えるものが自分たちの提供価値であり、「ソフト(オペレーション)」や「接客」という目に見えないものは価値とは感じにくいのだと察します。

このように、親会社・子会社というスキーム(本質的には直営ですね。分社化している理由の一つは、給与の格差をつける言い訳づくりのため?!)の場合は、上記のようなロジックによって、オペレーションやヒトがコスト・資源(=消費されるもの)とみなされ、人が資本(=投資すれば価値が高まるもの)とみなされにくいので賃金が上がりにくいのですが、「MC(運営受委託)契約」の場合も、上がりにくい内情があるそうです。ホテルを所有したい不動産業の企業が、運営を託すホテルオペレーターを選定する際、コンペをします。そのコンペの際に、オペレーターの開発担当者は受注したいがために、「うちは、人件費はこのくらいで済みます。よって、GOPもこんなに多く残せます」というプレゼンをするそうなのです。そうやって契約が決まると、それはそもそも無理のある契約内容となってしまい、運営チームに引き渡される。「申し訳ないが、人件費はこの予算でやってくれ」と。果たして、ホテルの現場で働くオペレーターのみなさんの給料は圧縮されてしまうのです。すべてがこうとは思いませんが、オペレーションの質よりも、運営軒数や売上利益を優先すると、このようなケースになってしまいます。

サービスオペレーションが生み出す価値

下記の図は、「ホテルの事業価値」を説明するために私がいろんなところで紹介しているものですが再掲して説明したいと思います。

みなさんは、考えたことありますか。図の3つのウェアのうち、「お客さんは、どこが魅力でホテルを選んでいるのだろうか?」「どこにお金を払っているのだろうか?」という問いです。もう20年以上前になりますが、旅行好きの私の母親に「ホテル選びの際、何にこだわるのか」を訊いたところ、「建物の素敵さ。サービスなんてどうでもいい」という答えを聞いてがっかりしたことを憶えています。戦後世代、貧しい日本を経験している世代は、目に見える価値にばかり注目してしまう性分になってしまうのでしょう。現代においては、さすがに「サービスなんてどうでもいい」という人はかなり少数派だと思いますが、図の真ん中(ソフトウェア)と右側(ヒューマンウェア)に魅力を感じてお金を払う人がどれだけいるか・・・、ここが論点だと感じています。もし、ハードウェアの魅力だけでホテルを選び、ソフトウェア(オペレーションによる体験価値)とヒューマンウェア(ホスピタリティ)は二の次というお客さんばかりだとしたら、やはり、オペレーターの所得は上がらないのでしょう。別の言い方をすれば、お客さん自身に「体験価値やおもてなし」にお金を投じている意識がないとすれば、やはりホテルパーソンたちの存在価値は低いと言わざるを得ないと思うのです。

思考停止状態で、経営会社が作った枠組みの中だけでオペレーションしていたらホテルステイの魅力や体験価値は高まりません。余談ですが、星野リゾートは、ソフトウェア、体験価値を30年間磨き続けて、運営会社としての地位を築き、60軒以上のホテル運営を任されるまでになったのです。ホテルのマネジャーや現場スタッフの給与を上げようと思ったら、まずは自分たちが創造してお客さんに提供する価値を高めることからではないでしょうか。そして、日本では、サービスは「無料」という意味に解釈されていますが、そうではなく、グローバルの常識同様に「サービスは有償」であり、サービスをお金に換えていくという取り組みをサービス産業全体で行なっていく必要がありそうです。

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